「コンプリート・レコーディングス」を持っているのに、わざわざこれを買う必要がないではないかと思われるかもしれませんが、やはりオリジナル・レコードは違います。コンプリートの方は同じ曲のテイク違いが並んでいますから、こちらの方がすっきりしていますし。

 ロバート・ジョンソンは1911年生まれとかなり昔の人ですし、やっている音楽もブルースですから、何となく年寄りであるかのような気がします。しかし、このアルバムを録音したのは1936年から37年、ロバジョンはわずかに25、6歳に過ぎません。

 そもそも毒殺されたとされるのも27歳の時だと言います。ちょうどジミ・ヘンドリックスが亡くなったのが27歳、同じ歳です。天才は夭折が相場ですけれども、この偶然は何とも驚きます。27歳は天才の厄年ということにしておきましょう。

 この作品が世に出たのは、1961年のことです。死後四半世紀近くが経過していました。当時、ロバジョンは噂ばかりが先行する伝説的な人物でした。アメリカでも実際に音を聴いた人はほとんどいなかったようです。

 そこにこの作品が編集されてリリースされたわけです。こういう時は失望されることが多いのでしょうが、さすがに天才ロバジョンは違いました。むしろ、デルタ・ブルース全般への関心を一気に高めた記念碑的な作品となりました。

 ジャケットには「シソーラス・オブ・クラシック・ジャズ」と副題が付けられています。シソーラスには名作集や宝典という意味もありますから、当然そちらでしょう。60年当時にジャズのルーツを探ろうとして、ロバジョンに辿りついたという宝探しの気概を感じます。

 ほとんど無名のまま亡くなったロバートですけれども、とにもかくにも正式に録音セッションを設けるほどには、口づてでその名があちらこちらに広まっていました。考えてみれば凄いことです。もう少し長生きしていたら、そのまま有名になっていたことでしょう。

 それはやはり彼が天才だからとしか言いようがありません。彼の音楽には凄味があります。ジャケットの通り、ギターを弾きながら歌うシンプルなスタイルですけれども、ここまで豊潤な世界が現前するのは驚異と言わずして何と言いましょうか。

 このギターの醸し出す味わいは素晴らしい。もちろんモノラルですけれども、凛として艶めかしい音色はむしろ現代の音よりもいいです。そして、このボーカル。やはり若いんでしょう。ブルースがまだ若かった時代、そうです。パンクです。

 録音を担当したドン・ローによれば、彼はきわめて恥ずかしがり屋だったそうで、ミュージシャンを前に演奏を頼んだところ、壁の方を向いて演奏したそうです。そして彼は録音当時、ロバートがまだ17か18歳だったと語っています。

 今では1911年生まれが定説となっていますが、実は10代だったとした方が夢があっていいです。そうなると、本物の天才高校生だということになります。親父臭い音楽の筆頭のように言われるブルースが、実はパンクそのものだった。いい話です。

King Of The Delta Blues Singers / Robert Johnson (1961 Columbia)