ジャケットがカッコいいです。ここでコンラッドが持っているのは、「コン3」のブックレットにも写真が掲載されていたもので、棒の先に頭がついています。彼はこれを「ハリー」と呼んでいたそうです。マイクが内蔵されていて、街の音を拾うのに最適だった模様です。

 本作品はハリーとは関係なく、ピーター・バウマンのパラゴン・スタジオで1980年から81年にかけて録音された作品です。小柳カヲルさんのライナーノーツによれば、「パラゴン・スタジオで制作された初期音源を再発したい」との申し出にコンさんが応えて再発されました。

 再びライナーによると、コンラッドが送ってきた大量の音源の中に、「全く聞いたこともないタイトルのフルアルバム音源が含まれていた」とのことで、それがこの「エレクトロコン」です。LPとしてのリリースに至らなかった幻の作品になります。

 しかし、6曲目から10曲目までは、「コン」がフランスから再発されて「バレエ・スタティーク」になった時にボートラとして収録されていました。さらに、ここからは公式サイト情報ですが、1曲目から5曲目まではCD「ブルー・グロウ」に収録されていた模様です。

 も一つ公式サイト情報では、この10曲はカセット作品「コンテナT4」としてリリースされたことがあるそうです。「コンテナT1-T12」は1982年に自主制作された90分カセット6本組で、もともとは12枚組LPでの発売を計画していたものだそうです。

 これはそのうちのT4に当たります。CD化されるのは初めてですが、このCD化の翌年には「コンテナT1-T12」がCD-Rでリリースされています。経緯だけを書いていても、何だか熱烈なファンになったようで楽しくなってきます。

 「バレエ・スタティーク」収録曲には、それぞれ「凍った泡」「ブタ・ラーガ」「アエリアの鐘」「溶けゆく蜜蜂の沈没」「水の中の教会」とへんてこりんな曲名がついていましたが、本人のあずかり知らないことだと、すっぱり切り取られました。

 タイム・カウントは微妙に数字がぶれていますけれども、基本的には全ての曲が4分間になっています。誤差があるのはしょうがありません。コンさんの意図としてはきっちり4分間の楽曲が10曲なんでしょう。タイトルもなし。潔いです。

 サウンドはコン・シリーズの歌物とは全く異なり、一人エレクトロニクスという意味では最初の「コン」に近い路線です。しかし、ピーター・バウマンのプロデュースによって、音楽的なまとまりがあった「コン」とは感触が異なります。

 素材集であると思えばよい気がします。スタジオでエレクトロニクスを操作して、気に入ったアイデアを4分間の長さで切り取ってストックしておく。あまり使いまわしたりしない人のようなので、実際に素材となったわけではないでしょうが、習作的なイメージが伴います。

 典型的な80年代的なエレクトロニクスの使い方というよりも、その少し前、現代音楽に電子音楽が登場した頃のサウンドを彷彿させます。70年代SF的なサウンドと言ってもよいかもしれません。これはこれで面白いものです。

Electrocon / Conrad Schnitzler (1982 Private)