ジャケットに見えるオブジェは、コンさんがパフォーマンスに使っていたものでしょう。フルフェイスのヘルメットのてっぺんにスピーカーがついています。コード類が見えるように、これが機械につながって音を出すようです。

 コンラッドのオブジェの中で他に有名なものは人型の頭を使ったものです。添付されているブックレットには、黒ずくめの衣装に身を包んだコンさんが、このジャケットと同じオブジェを被り、人型オブジェを右手に、シンセを左手に持った写真が掲載されています。

 ユーモラスな脱力系写真ですけれども、背景にはベルリンの壁が写り込んでいます。コンラッド・シュニッツラーはベルリンで活動していました。この当時はまだ壁があった頃です。SF的な壁に囲まれた社会が本当に存在していたんです。

 そんなことに思いを馳せながら、このアルバムを聴いてみるとまた一味違った感想が出ようというものです。戦争の傷跡がまだ深く残っていたドイツ人の心象風景について、私たちはあまりに無神経なのかもしれません。

 このアルバムは、ドイツのエレクトロニクス・ミュージックを世界に紹介したスカイ・レコードから発表されました。コンラッド・シュニッツラーの名義ですが、相棒には「コン2+」に続いて、ヴォルフ・シーケンツァことヴォルフガング・サイデルが選ばれています。

 前作EPが歌入りだったことに続いて、この作品でも全曲歌入りとなっています。解説にある通り、「数多いコン氏の作品中、最もポップで親しみやすい風変わりな歌ものアルバム」になったと言えるでしょう。

 この当時のドイツではノイエ・ドイッチェ・ヴェレ、すなわちジャーマン・ニュー・ウェイヴが起こっていました。「プロの洗練された技術より、既成概念にとらわれない素人のユニークなアイデアを重視」する音楽群でした。

 その乾いたユーモア感覚はとても新しかったです。コンさんのこの作品は、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの作品群に紛れさせても、ほとんど違和感がありません。何と言っても、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの有名人ホルガー・ヒラーはコンさんのアートスクールでの生徒でした。

 ここでのコンさんの弾けぶりは歌詞に端的に表れています。♪カネが無い♪とか、♪我々は何者だ?♪とか直截です。ちなみに「我々は何者だ?」では奥さんのジリーさんと息子グレゴール君がボーカルで参加しています。

 尋常でない電子音が今回も使われていますけれども、基本的には明確なビートが続く、電子音楽です。しかし、クラブ・ミュージック的な要素はなくて、荒涼としたエレクトロ・ポップといったサウンドです。そこに何とも人を喰った歌詞が躍っています。

 芸術家なのかエンターテイナーなのかと問われれば、パフォーマーだと答えるしかない。自在にサウンドの景色を変えるコンさんですけれども、その道行は唯一無二のものです。スピーカー・ヘルメットをかぶったコンさんを見てみたかった。

Con 3 / Conrad Schnitzler (1981 Sky)