キャプテン・トリップから発売されたコンラッド・シュニッツラーの作品群は恐るべき再現度の紙ジャケットに包まれています。この作品は、裏表真っ白のジャケットにアルバム・タイトルを書いたステッカーが貼ってあるだけです。しかし再現度は高い。

 その再現度はジャケットの紙質に表れています。ぺらんぺらんの白いボール紙です。通常の紙ジャケですと、もう少しいい紙を使うんですが、ここでは違います。同じレーベルの他の紙ジャケとも全く違います。オリジナルと同じ紙質なんでしょう。

 さらに封入されているスリップもオリジナルを再現しています。各楽器とミキサー、スピーカー、テープなどをつないだ絵、さらにスリップの下部に「あなた自身のボーカルの伴奏にこのレコードを使ってください。そして、そのカセットを送ってください」との文字が書かれています。

 わずか500枚しかプレスされなかったアルバムですけれども、そのメッセージはきちんと伝わって、実際にテープを送ってきた人がいます。それがニューヨークの若手ミュージシャンだったジェン・ケン・モンゴメリでした。後にジェンはコンラッドと共作アルバムを作ります。

 この作品は、コンラッド・シュニッツラーとKのクラスター時代からの盟友だったウォルフガング・シークエンツァとの共作です。シークエンツァはニックネームで、本名はザイデルです。明らかにシークエンサーと関係があるのでしょう。

 制作されたのは1980年のことで、自主制作LPとしては、「青」以来、実に6年ぶりということになります。意外な気もしますが、他の作品は、カセットだったり、メジャーからだったりするので、こうなっています。やはりコンラッドにしてもLPはまだ特別だったのでしょう。

 封入されたスリップの文章通り、この作品はボーカルが入ることを前提に作られているようです。あの文章は本気だったんです。聴き手が参加して完成する作品です。コンラッド・シュニッツラーの音楽観はやはり興味深いです。

 もともとはドラマーだったシークエンツァがリズムを担当しており、全12曲それぞれにしっかりしたリズム・トラックを作成しています。コンラッドが上物を担当しているのでしょうが、その彼のプレイもフレーズの繰り返しを多用しています。

 確かにボーカルを入れることで完成するのだと思います。各曲はボーカル向けにさほど長くはありません。それなので、カラオケだけ聴いても十分に楽しめるのですが、やはりボーカルがあると面白そうです。ただ、ちょっと歌ってみましたが、なかなか難しいものです。

 スリップの絵によれば、ギター、パーカッション、シンシA、シンセサイザーが使われています。これをミキサーにつなぎ、さらにテープやエコーを加えて音が出来上がっていきます。伴奏に徹する潔いサウンドは不思議と心地よいです。

 ボートラが2曲ありますが、そちらはプレイバック用ではないので、やはりすわりが悪いです。LPはLPとして作品のまとまりがあることがボートラで知れます。いつものエレクトロニクス・ミュージックですが、やや特異な位置にあるアルバムと言えます。

Consequenz / Conrad Schnitzler & Wolf Sequenza (1980 Private)