赤ちゃんが煙草を吸ってはいけません。よく見ると羽が生えているので、天使なのでしょうけれども、天使ならば余計に煙草はダメでしょう。それにしても、このいたずら顔はなかなかしたたかです。デイヴィッド・リー・ロスのアイデアっぽいですが、どうなんでしょう。

 この作品は、ヴァン・ヘイレンの6作目にして、1000万枚を超える特大ヒットとなったアルバムです。ところが全米チャートでは2位どまり。1位に君臨していたのはマイケル・ジャクソンの「スリラー」でした。

 「スリラー」収録の「ビート・イット」ではエディー・ヴァン・ヘイレンが印象的なギターを弾いており、それが大ヒットの一因でもありましたから、皮肉なものです。ただ、このミュージック・ビデオはエディーの名を全国区に轟かせましたので、結果的には得をしたことでしょう。

 何と言っても「ジャンプ」です。80年代ヒット曲集には必ず選ばれる名曲です。それもヴァン・ヘイレンの看板であるギターではなくアナログ・シンセによるイントロ一発で持って行く破壊力のある曲でした。

 当時、職場の先輩にサラリーマンの多いディスコに連れていかれました。そこで、この「ジャンプ」がかかると、それまで座ってお酒を飲んでいたサラリーマンやOLの皆さんが、一斉に歓声をあげてフロアに繰り出してきたことが強く印象に残っています。

 ハード・ロックのヴァン・ヘイレンがディスコで人気、というところが新鮮でした。それをハード・ロック・ファンの側から見れば、この作品はヴァン・ヘイレンの「産業ロック化」という見方になります。ギター・ヒーロー、エディーがキーボードを弾いているところに典型を見ます。

 産業ロック化はすなわちポップ化ということですが、この流れに反対してバンドを脱退したのが、もっともエンターテイナー的なデイヴィッド・リー・ロスだったのも面白いことでした。「キーボードを弾くエディーなんか見たくない」と言ったとか言わなかったとか。

 時はニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビー・メタル、NWOBHMがアメリカに進出した後です。その誕生に多少なりとも影響を与えたであろうヴァン・ヘイレンが、ポップな方向に舵を切ったということも、これまた面白いことです。

 アルバム発表当時の日本盤のタスキには、「お嬢さん火傷するぜ!」と稀代の名コピーが大書されています。ここにはヘビー・メタル・バンドの残滓が見られます。ヴァン・ヘイレン・サウンドのポップ化に十分対応できていません。

 発表当時は、このようにヴァン・ヘイレンのサウンドの変化は、多くの新しいファンを獲得しましたが、古くからのファンは戸惑いました。ただ、ギターもバリバリ活躍していますので、そこだけは安心したことでしょう。、

 30分強の中に、キャッチーな曲が詰め込まれた胸のすく作品です。1000万枚はだてじゃありません。「ジャンプ」以外にも「ウェイト」や「パナマ」の大ヒット曲も含む80年代を代表する名盤です。

1984 / Van Halen (1983 Warner Bros.)