ヴァン・ヘイレンはメンバーがまだ20歳前後の頃、カバー曲中心にロサンゼルスのサーキットをノン・ストップで回り続けていたそうです。それをキッスのジーン・シモンズが見て仰天し、デモを作成、プロデューサーのテッド・テンプルマンの目に留まってデビューしました。

 しかし、こんなバンドがセミプロとして演奏しているところを見た人々は驚いたことでしょう。ビートルズやストーンズなどのデビュー前は恐らく原石の輝きです。しかし、彼らの場合は、特にエディーのギターはすでに完成品です。観客はとても奇妙な気持ちになったと思います。

 ヴァン・ヘイレンの登場はいろんな意味で画期的でした。時は1978年、イギリスではパンクが燃え盛った直後です。パンクだニュー・ウェイブだと騒いでいた日本の若者の前に、ヴァン・ヘイレンは現れました。ストレートなハード・ロックで。

 一部には囁かれていましたが、アメリカにはメイン・ストリームのパンクはありませんでした。それをヴァン・ヘイレンが教えてくれました。こざかしい若者をあざ笑うかのような「炸裂するパワー、痺れるドライヴ感」による「衝撃のデビュー・アルバム」がすかっと登場です。

 キッスやエアロスミスを継ぐ圧倒的なエンターテインメント性に、高度な音楽職人技を兼ね備えた、当時としては全く斬新なバンドでした。ヴァン・ヘイレンが切り開いた道はその後堂々たる幹線道路になっていきます。

 このデビュー・アルバムはチャート的には全米トップ20に入ったくらいですが、その後の彼らの活躍の原点として、その後も売れ続け、今では900万枚という記録的な売り上げになっています。デビュー作だということを考えると凄さが増します。

 当時、みんなの耳を奪ったのは、キンクスの永遠の名曲「ユー・リアリー・ガット・ミー」のカバーでした。キンクスの演奏もいいですけれども、ヴァン・ヘイレンのバージョンも凄い。デイヴィッド・リー・ロスのやさぐれたヴォーカルがカッコいいです。

 しかし、多くのロック小僧の心をつかんだのは、エディー・ヴァン・ヘイレンの革命的なギターでありました。イントロなど鳥肌ものです。当時のギター巨人たちとは違って、カメラに向かって、にこやかに笑いながら超絶プレイを繰り広げる姿は新時代を告げていました。

 プロデューサーのテッド・テンプルマンのたっての願いで、収録することになった「暗闇の爆撃」はあたかもチャーリー・パーカーの「フェイマス・アルト・ブレイク」のようなギター・ソロです。これが当時の気分を良く語っています。

 それに彼らのオリジナルもいいです。キャラの立っているボーカルと超絶ギターを最高に盛り立てる曲作りも新人とは思えない充実ぶりです。装備が充実しているので、曲も生まれやすいのでしょう。デビュー作品とは思えない完成度の高さです。

 「オシッコちびりそうなほどワイルドで、爆笑必至なほどアタマ悪そうな、だからこそ最高にカッコいい」(小野島大)とか、「みじんの知性も感じさせないキャラクター」(渋谷陽一)とか、デヴィッド・リー・ロスをフロントにたてた彼らへの当時の賛辞を味わいましょう。

参照:「ロックがわかる超名盤100」小野島大、「ロック・ベスト・アルバム・セレクション」渋谷陽一

Van Halen / Van Halen (1978 Warner Bros.)