ジャケットはスーツ姿の猿です。フェラ・クティは西洋に憧れる植民地根性をこれでもかこれでもかと糾弾します。スーツを着て、ネクタイを締めて、帽子をかぶってジェントルマン気取りでいるナイジェリアのエリートたちを相手に容赦ありません。

 遠いナイジェリアのことだと笑っている場合ではありません。ヨーロッパの気候風土には合っているスーツにネクタイですけれども、日本の夏には全く適合していません。ようやくクール・ビズが普及して一息ついた程度のことです。

 少し前のことですが、小池百合子さんがインドの地球温暖化関連会合で、クールビズをアジアン・ウェイだと紹介してインド人の聴衆から喝采を浴びたことが印象に残っています。蒸し暑いアジアにスーツ姿は合いません。やめられないのは植民地根性かもしれません。

 タイトル曲「ジェントルマン」はフェラのビジン英語による数々の歌詞の中でも最も有名なものの一つです。♪アイ・ノー・ビー・ジェントルマン・アット・オール・オ、アイ・ビー・アフリカン・マン・オリジナル♪。強烈な主張です。♪オリジナル♪というところが特に耳を奪います。

 熱い最中にスーツを着たジェントルマン気取りが、♪汗かいて、気が遠くなって、糞のような匂いを振りまいている♪と、まるで容赦ありません。フェラは自分の音楽で踊る前にちゃんと歌詞を聴けと言っていますから、まずはそちらをチェックしましょう。

 いつものようにA面をすべてこの「ジェントルマン」が埋め尽くしています。ちょっとお茶目なマラカスのような音によるイントロに続いて、フェラのサックス・ソロが延々と続きます。そこにリズムが加わってきて、いつものアフロ・ビートが全開になります。

 参加ミュージシャンはよく分かりませんけれども、バンドはアフリカ70です。いつものメンバーによる演奏でしょうが、どうやらテナー・サックスのイゴ・チコがバンドを脱退したようです。そこでフェラがいつも以上にサックス・ソロをとった模様です。

 B面は2曲で、2曲目にはボーカルも入っていますが、どちらもインストゥルメンタル中心と言って差し支えありません。こちらにはまだイゴ・チコが在籍していたということで、彼のソロがフィーチャーされています。聴き比べてみると面白いでしょう。

 B面の二曲は「フェフェ・ナア・エフェ」と「イグベ」と題されています。冒頭でフェラが説明していますが、今一つ意味が分かりません。ここは演奏を楽しむということでよろしいかと思います。どちらも8分程度の面白い作品です。

 この2曲は短いだけに、それまでのアフロ・ビートとは少し趣きが違います。むしろジャジーな雰囲気が強いです。どちらも基調となるフレーズがちょっと変わっています。ツンデ・ウィリアムスのトランペット・ソロもフィーチャーされて、ジャズ的な香りがします。

 いよいよ当局との対決姿勢は鮮明になりました。ビジン英語でのアジテーションはさらに影響力を増したようで、当局としても捨て置けないことになっていったということは、ますますフェラの音楽に磨きがかかってきたということです。

Gentleman / Fela Ransome Kuti & Africa 70 (1973 EMI)