多くの方と同様に、私のコンラッド・シュニッツラーとの出会いはこのアルバムでした。それまでの作品はせいぜい500枚限定で自主制作されていたに過ぎず、名前は知っていても音楽を聴いたことがある人はほとんどいなかったのではないでしょうか。

 この作品はコンラッド・シュニッツラー初のメジャー流通作品です。タンジェリン・ドリームで成功を収めていたピーター・バウマンが運営していたパラゴン・スタジオにて、ピーターをプロデューサーに迎えて制作されたものです。

 ドイツではそのパラゴンから発表されています。しかし、その作品が世界で流通するようになったのは、フランスのバークレイ傘下に設けられたエッグ・レーベルと契約したからです。エレクトロニクス・ミュージック専門レーベルとして期待が高かったレーベルです。

 何とそのエッグ・レーベルの作品は日本でもキング・レコードから発売されました。このシリーズで初めて聴くことになったのが、レデリウス、ポポル・ヴー、エルドン、そしてこのコンラッド・シュニッツラーでした。

 この作品は衝撃的でした。一曲目の「エレクトリック・ガーデン」は、浮遊感に溢れた電子音の壁飾りのような作品でした。大きな地底湖に落ちる水滴の音、スーパー・カミオカンデにあたるニュートリノの音のような感覚です。ニュートリノはどんな音か知りませんが。

 当初は、まるで音楽じゃないように感じました。電子音による音響彫刻とでも言うべき作品で、唯一無二の存在感でした。しかし、その後、コンラッド・シュニッツラーの初期作品などが聴けるようになってきますと、このアルバムへの考えも少し変わってきました。

 そう、これは実に音楽的です。やはりピーター・バウマンのプロデュースによる部分が大きいのでしょう。特に、2曲目の「バレー・スタティーク」などはピーターの影響が極めて強い曲で、ピーターの作品に収録されていてもおかしくないくらいです。

 我が道を行くコンラッドをうまくピーターが御して、コンラッド作品のショウルーム的にまとめ上げたのではないでしょうか。各楽曲のコマーシャルなポテンシャルも意外と高く、アルバム全体がポップにまとめられています。天晴な傑作でしょう。

 この作品は、当初「コン」と題されてましたが、フランスでCDとして再発された際に、「バレエ・スタティーク」となり、紙ジャケCD再発にあたって「コン」に戻りました。その2枚のCDに収録されたボーナス・トラックは全く異なっています。コレクターの方はご用心。

 裏ジャケにはコンラッドのパフォーマンス姿が掲載されています。クラウス・ノミや鉄拳系統、恐れずに率直に言えばバカ殿風白塗りメイクのコンさんが白い手袋をして踊っています。フェルナン・レジェの映画「バレエ・メカニーク」や表現主義映画「カリガリ博士」のイメージです。

 「インターメディア・ライフ・アクション」の標語は、さまざまなメディア を縦横無尽に駆使して、果ては人生そのものが芸術であるような、そういうダダ的嗜好の宣言です。そうであれば、当初、音楽じゃないように感じたのは正解だったかもしれません。大傑作です。

Con / Conrad Schnitzler (1978 Paragon)