色シリーズも第四弾となり、今度は黄色が登場しました。赤青黄と三原色が揃いました。赤や青に比べると黄色は明るい。それに何やら落ち着かない。黄色いビルを建てて怒られた人がいました。赤や青よりも挑戦的です。

 しかし、この作品はもともとは「ブラック・カセット」として自主制作で発表されたものです。「黒いカセット」が原題です。それが1981年にエディション・ブロックというところからLPとして発表された際に色シリーズに組み込まれ、めでたく黄色となりました。

 「黒」を発表していなかったらすんなりと「黒」になっていたかもしれません。ここら辺り、コンラッド・シュニッツラーには何のこだわりもないことが良く分かります。ただし、ジャケットは音楽と切り離してそれだけで並べて楽しい。マルチメディア・アーティストです。

 この作品に収録された楽曲は全部で12曲。長くても6分くらいですから、これまでの作品に比べると随分と短い曲ばかりが収録されていることになります。それにタイトルはありません。いずれも便宜上「黄色」と番号で識別されています。

 この頃、コンラッド・シュニッツラーは二つのサウンド・トラックを手掛けています。その一つはカールハインズ・ホデックの「スロー・モーション」という作品で、ビデオでも発表されています。何でも「水や光、物のスロー撮影」にコンラッドが音を付けた作品のようです。

 それで、その音源がこの「黄」にも一部に使用されています。どの部分なのか皆目見当がつきませんけれども、アルバムの成り立ちを知る上では貴重なエピソードです。この頃のシュニッツラーはすでに膨大な録音を残していて、それから適宜編集したのがこれなんでしょう。

 CD化に際して付けられたボーナス・トラックは3曲、短くて6分強、長いものは12分超です。同時期に録音されていたものだそうですけれども、やはりボーナス・トラック然としています。アウトテイクというわけではないでしょうが、アルバムでのすわりは悪いです。

 そんなところからも、編集の妙味を感じます。無造作に集められているようで、LPとしてしっかり完結している。12曲目がカットされたバージョンもあるそうですが、さぞかし不完全燃焼な気持ちに聴き手を置いたことでしょう。

 サウンドは、各楽曲が短いだけあって、それぞれの曲がさまざまな表情を見せています。一曲一アイデア的な潔さです。これまでで一番音楽的で、タンジェリン・ドリームのサウンドに近いものを感じました。非音楽家を貫き通すのはなかなか難しいです。

 ただし、タンジェリンとの違いは非音楽的な音の使い方に自信が漲っていることです。思い切りがいい。ノイズ的なサウンドが傍若無人に突っ込んできます。そこを楽しむのが本作の醍醐味ではないでしょうか。当時のシンセ・サウンドの一つの極みです。

 なお、本作には二つのマスター音源があるそうで、「クラウト・ロック大全」によれば、それを小柳カヲル氏が指摘するまで本人が気づいていなかったそうです。これ、ファン冥利につきます。小柳さんはさぞかし嬉しかったことでしょう。うらやましいです。

参照:「クラウト・ロック大全」小柳カヲル

Gelb / Conrad Schnitzler (1974 Private)