弦楽四重奏はピアノがない分、お手軽にどこへでも行けます。チェロがちょっと大きいので面倒ですけれども、それにしても電車移動ですら可能でしょう。貴族のお屋敷にはピアノがあるでしょうから、関係ないかもしれませんが、公民館などでは重宝する編成です。

 そんなわけで、勃興する中産階級にとってもお手軽に聴ける音楽団として人気を博したことと思います。ドンキー・カルテットからの連想かもしれないと思い直しましたが、いずれにせよ大衆音楽的軽妙洒脱さが持ち味ではないかと思います。

 気難しいベートーヴェンですら、最終楽章が長すぎるし、難解すぎると注文主に要求されて、書き直したのは、やはり弦楽四重奏ならではのことでしょう。この作品に収録の弦楽四重奏曲第13番がそれにあたります。

 書き換え前の14分に超える長大な楽章は今や「大フーガ」として作品番号を与えられています。作品133番です。このCDもそうですが、今は大たいこの133番と書き換え後の最終楽章のどちらも収録することが一般的なんだそうです。

 蛇足という言葉も思い浮かびます。しかし、この「大フーガ」は傑作です。ただ、当時の聴衆には難解だとされ、技術的にも難度が高いのだそうです。難度は何とも判断しかねます。難解については、ロックやジャズを聴いている人にはむしろ耳触りがよいです。

 私もぼーっと聴いておりましたら、「大フーガ」の盛り上がりで目が覚めました。ベートーヴェンがロケンロールしています。このヴァイオリンの使い方は、ロックにおけるヴァイオリンの音と似ています。ぐいぐい来ます。

 書き直し後の楽章もカッコいいとは思います。ベートーヴェンは憤懣やるかたなかったでしょうけれども、ここで爆発させてしまうとまた書き直しになると思ったかどうか。努めて冷静にふるまいました。さすがは職業作曲家です。

 演奏はタカーチ弦楽四重奏団です。彼らは1975年にハンガリーにて学生4人が結成したバンドです。2年目に初めての賞をとって以来、数々の賞を受賞するなど大活躍しています。1983年以降はマラソンの聖地、アメリカのコロラド州ボールダーを拠点に活動しています。

 この作品を録音した時には、オリジナル・メンバーのうち二人は去り、英国出身のミュージシャンに入れ替わっています。ハンガリーと英国の混成カルテットになったわけです。この編成でベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を録音しています。

 ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲は、第九と並んで、ベートーヴェンの一つの到達点ですから力も入ったことでしょう。これはその後期の作品群の一つで、第11番と第13番の2曲が収録されています。他の曲も収録したボックス・セットも出ています。

 長らくスメタナ弦楽四重奏団がスタンダードとされていましたけれども、このタカーチも新たなスタンダードとして人気を博しているようです。泥臭い演奏と評されているので、そう思って聴いてみました。かなりなロケンロールで大変結構ではないかと思いました。

Beethoven : The Late String Quartets / Takács Quartet (2005 Decca)

14番ですが。。。