私にとって、カルト・バンドと言えば、真っ先に思い浮かぶのがこのミーコンズです。1977年にイギリスのリーズで結成された時は、みんなまだ大学生でした。同じ仲間からギャング・オブ・フォーやデルタ5が出てきていますから、そこからしてカルトです。

 それに1982年頃に解散したと聞いていたのですが、実は1984年の炭鉱ストを契機に復活、アメリカに拠点を移して、2015年現在なお活動中だといいます。その間、私の耳に彼らの活動のことは何一つ届いていません。ここらへんもカルトそのものです。

 彼らは最も熱心なフォロワー集団を持っていると言われます。まさにカルトの定義を地で行くようなバンドなんです。インターネットで調べてみると結構な情報量です。公式サイトも充実しています。ネット時代にはカルトは生き残りやすいです。

 この作品は1980年に発表された彼らの二枚目のアルバムです。公式再発CDなのに全く記載はないのですが、「悪魔ねずみと子豚ちゃん ゴジラからの特別メッセージ」と言う題名で知られている作品です。

 ジャケットは、ドイツ・ロマン主義の画家カスパー・ダーヴィド・フリードリヒの1818年作品「霧の海を眺めるさすらい人」を配したシンプルなものです。この絵はしばしばツァラトゥストラと同定されると言えば、ますます意味深長です。とても悪魔的に見えてきます。

 ミーコンズの音楽はジャケットどおりとても悪魔的です。手作り感覚などとも言われますが、音がまるでミュージシャンっぽくありません。アルバム評に、まるでその場で誰がどの楽器を演奏するか決めたような作品だというのがありましたが、真実かもしれません。

 当時はニュー・ウェイブ時代です。例えばコード進行というものをよく知らないような人たちが大挙して音楽界に押し寄せました。音楽をよく知らない私はまるで大丈夫なのですが、知っている人は不安になったに違いありません。

 ミーコンズはそんなバンドの一つですが、音楽を知らない私ですら、不安になるような不思議な感覚でした。何がどう変わっているというわけではない、一見普通の音楽なんですが、一皮むけば何やら恐ろしいものが出てきそうです。

 すかすかでごつごつしています。それに加えて、知的な雰囲気が強く漂います。もともとデビュー曲が「暴動したことない」というクラッシュの「白い暴動」へのアンサー・ソングだったように、批評性が彼らの持ち味なんです。

 メンバーは公式サイトによれば、7人。今も残っているのは、このうち、トム・グリーンハルとジョン・ラングフォードの二人だけです。だけとはいえ、35年以上も続けているのですから大したものです。さまざまなプロジェクトでも活躍しているようですからカルトの大将です。

 高みから下界を見下ろす精神貴族のようだった彼ら。しょっちゅう聴いたというわけではないのですが、とても気になるバンドでした。メンバーそれぞれがアートの世界でも活躍するという正しいポスト・パンクのあり方を実践している人たちです。

Devil Rats And Piggies a Special Message from Godzilla / The Mekons (1980 Red Rhino)