ブルーノートはやはり格別なレーベルです。ブルーノートからアルバムを発表するというだけで、ジャズ界でお墨付きを与えられたという感じがいたします。同じくエスタブリッシュされた個性的なレーベルECMとは正統派度が違います。

 ホセ・ジェイムズはクラブ・シーンの顔役ジャイルス・ピーターソンに見いだされてデビューしました。その彼がブルーノートに移籍してから初めての作品がこの「ノー・ビギニング・ノー・エンド」です。

 めでたく日本でもジャズ・チャートの1位を獲得しましたし、シングル「トラブル」が全国ラジオ・チャートの洋楽部門で1位となりました。ブルーノートの力も預かったことと思います。ジャイルスの絶賛でイーハン乗ってますし。

 ホセは「包み込むセクシー・ヴォイス」を持つボーカリストです。「ビリー・ホリデイに代表されるディープでソウルフル、甘くセクシーな歌声」が魅力です。本人は辟易しているのに、レーベル公式サイトには「ディアンジェロの再来かと思わせる」とあります。

 ディアンジェロはネオ・ソウルと呼ばれていて、ジャズど真ん中の人ではありません。要するにホセは、一応はジャズに分類されるものの、ソウルやR&B,ヒップホップなどのスタイルもモノにした多彩なボーカリストです。

 この作品には、ミュージシャンのクレジットがありませんので、はっきりとは分かりませんが、レーベル・メイトのロバート・グラスパーや、人力ブレークビーツ男のリチャード・スペイヴンなどが参加している模様です。さらに日本からはトランペットの黒田卓也も参加しています。

 プロデュースには本人に加えて、ピノ・パラディーノの名前が見えます。彼はザ・フーのレギュラー・メンバーとしても知られる超絶ベーシストで、ディアンジェロの作品にも参加しています。また、女声ボーカルではインディ・ザーラとエミリー・キングがフィーチャーされています。

 ジャズ界の先端を突っ走るアーティストが集ったアルバムです。「ぼくがいま音楽について感じていることの集大成」とはホセの言葉です。ミュージシャン選びからして集大成なのでしょう。非の打ち所のない選び方です。

 ホセは、デューク・エリントンの「A列車で行こう」でジャズに目覚め、ジョン・コルトレーンの影響を受けて育ちました。大学でもジャズを専攻しながら、各国のジャズ・コンテスト破りをして歩きます。そしてロンドンでジャイルスに出会うわけです。

 何ともジャズ一直線の人生です。それなのに、あるいはそれゆえにということなのか、ダンス・ミュージック界からもオファーが殺到する秘訣は、この声にあります。確かに甘くてセクシーな美声です。クラブ・ジャズにはもってこいでしょう。

 サウンドは新感覚のジャズ。ヒップホップ以降のジャズです。時にR&B、時にソウル、時にヒップホップと自在なサウンドを美声が締める。夜が似合います。グラスを片手にしんみりと聴いていると涙が出てきます。

No Beginning No End / José James (2013 Blue Note)