フォーク・ロックという言葉はバーズの音楽を形容するために生まれたのだそうです。当たり前になった言葉の元祖というのはなかなかカッコいいものです。まるでガッツ・ポーズのガッツ石松のようです。

 ザ・バーズは1964年11月にCBSレコードと契約し、プロデューサーのテリー・メルチャーの手に委ねられると、いきなりボブ・ディランの「ミスター・タンブリン・マン」で英米のチャートを制覇するという鮮烈なデビューを飾っています。

 彼らのサウンドの特徴は何と言っても、ジム・マッギンの12弦ギターと、ドラムのマイケル・クラークを除く4人のメンバーのさわやかなコーラスにあります。この曲ではいきなりそれが全開になっています。ディラン自身もいたく感激したというカバー作品の鑑です。

 しかし、このシングル曲の録音にあたっては、その特徴の12弦ギターとヴォーカル以外はスタジオ・ミュージシャンが演奏しているという皮肉な事態が生じています。そのために、アルバム全部がそうであるとしばしば言われます。

 これは誤解なんだそうで、その他のアルバム収録曲は、ようよう技量が人様に見せるにたるまでに成長したとテリーにお墨付きをもらって、メンバーが演奏しているそうです。聴けばすぐに分かるとも言われますが、それほどくっきりとはしていません。

 そんな辱めを受けたメンバーにはデヴィッド・クロスビーやジーン・クラークなどの大物もいますから何だか面白いです。昔はこういうことがよくありました。そんな逸話はさておき、シングル・ヒットの余勢をかって、制作されたのがこのデビュー・アルバムです。

 ティーンのアイドルとなったザ・バーズは、「ビートルズへのアメリカからの回答」として英国へのツアーにも出かけます。この掛け声は成功したとは言い難いのですけれども、一応、ザ・バーズはビートルズに果敢に挑戦したアメリカン・バンドの筆頭になっています。

 そんなこんなで話題がとても豊富なザ・バーズですが、典型的なティーン向けLPとして作られたデビュー・アルバムながら、クラシックのステイタスを獲得しています。オリジナル曲5曲、ディランのカバー4曲を中心とするアルバムはきらきらと光り輝くアルバムでした。

 「ミスター・タンブリン・マン」のイントロにおける12弦ギターの魅力は何物にも代えがたいものがある他、ディランの曲のカバーはどれもこれもディランを喜ばせました。2枚目のシングル「オール・アイ・リアリー・ウォント」を聴いたディランは「踊れる曲になったぜ」と驚いています。

 オリジナル曲がまた素晴らしい。ジーン・クラークが中心になっていますが、メンバー全員が書ける人たちです。私は「すっきりしたぜ」が大好きです。皮肉な歌詞もいいですし、さわやかを絵に描いたようなサウンドが輝いています。

 私が洋楽を聴き始めた頃にはすでにクラシックの地位にあり、その後の各メンバーの活動も知れ渡っていましたので、リアル・タイムでいきなりこのアルバムに出会った人たちの驚きは残念ながら追体験できません。恐らく衝撃的だったことでしょう。

Mr. Tambourine Man / The Byrds (1965 Columbia)