ダムドのセカンド・アルバムは皆をあっと言わせました。それはプロデュースが恐竜ピンク・フロイドのニック・メイソンだったからです。77年11月といえば、パンクが盛り上がっていた時期、裏を返せばオールド・ウェイブが最も割を食っていた時期です。

 特にパンクの正反対にあると目されていたのはプログレで、しかもその中でも最もプログレらしい大作主義のピンク・フロイドです。これまたパンクの精神の問題として、それでよいのかダムドと物議を醸したわけです。

 しかし、これがクラッシュやピストルズであれば、騒ぎはもっと大きくなったことでしょうが、ダムドの場合にはそこまでの盛り上がりはありませんでした。ダムドのやることだから、と大目に見られていたと思います。パンクのお笑い担当ですから。

 お笑い担当だったとはいえ、サウンド的には今につながるパンクの源流はダムドだと思います。グリーン・デイに至る現代パンクのサウンドに近いのは他の誰よりもダムドでした。高速タテノリリズムにキャッチーでコンパクトな歌。パンクのプロトタイプです。

 ダムドの2作目はデビュー作から1年とおかずに発表されました。前作は4人組での作品でしたが、この作品はギターでロバート・ルー・エドモンズが加わって5人組のダムドが演奏しています、音に厚みが出てきましたし、勢いまかせの前作とはちょっと違う作品になりました。

 そこがニック・メイソンの役割なのかもしれません。一言で言えば、レコードとしての完成度が高い。いろいろな工夫が凝らされていて、各楽曲が出来てから完成するまでに、少なくとも何かをしっかり考えている様子がうかがえます。

 そういう姿勢はアティテュードとしてはパンクっぽくはないのですが、実際には何がパンクっぽいのかを考えざるを得なくなっていたので、何も考えずに衝動のままに未完成でも録音してしまうというわけにはいかなかったということでしょう。

 その意味では、前作よりも今作の方が、今で言うパンクっぽい感じがします。パワー・ポップ的なパンク。このアルバムには、名曲「ニート・ニート・ニート」や「ニュー・ローズ」のような目立つ楽曲があるわけではありません。しかし、全体を通してとてもパンクなサウンドです。

 特に冒頭の「プロブレム・チャイルド」などは前作の延長にあるダムドらしい楽曲です。しかし、考えだすとメンバー間の意見の相違も出てくることになります。アルバムのラストを飾るパンクらしくない楽曲「ユー・ノウ」がそれを一身に体現しているかのようです。

 「ユー・ノウ」は特徴的な反復リズムにロル・コックスヒルのサックスがフリーキーに舞う大作です。バンド内には恐らく対立が生じたのでしょう。このアルバム発表と前後して、ジミー・ペイジが絶賛したドラマーのラット・スキャビーズが脱退します。

 さらにリーダー格だったブライアン・ジェームズも脱退して、アルバム発表後わずかに3か月でダムドは最初の解散を迎えます。パンクのバンドは勢い良く飛び出したバンドが多いだけに、皆さん短気です。

Music For Pleasure / The Damned (1977 Stiff)