アヴァロンはアーサー王が最後を迎えた島であり、しばしば極楽浄土と観念される場所です。そこの日没:風景には白鳥が良く似合いそうです。また、この配置が見事です。ヴァン・モリソンには珍しく、本当に美しいジャケットです。

 私はヴァン・モリソンの数多い作品のすべてを持っているわけではなくて、人気のあるアルバムをつまみ食いしているにすぎません。そうしていると大たい聴いている作品は傑作ということになります。この作品も人気のある名盤です。

 ヴァン・モリソンのアルバムも早いもので通算22枚目になります。一つ前の作品がアイルランドの名物バンド、チーフタンズと共演したアイルランド民謡アルバムでしたから、普通のアルバムとしてはほぼ2年ぶりになります。

 まず大きな話題はクリフ・リチャードとジョージー・フェイムというイギリスのビッグネーム二人のゲスト参加です。クリフ・リチャードは言わずと知れた英国ポップNo1男で、ヴァン・モリソンよりも5歳も年長です。

 クリフは以前からヴァンの熱烈なファンで、一度はデュエットしてみたいと願っていたのだそうです。二人は1曲目の「ホエンエヴァー・ゴッド・シャインズ」でデュエットしていますが、レコーディング当日に初めて顔を合わせたにもかかわらず息のあったデュエットになりました。

 私はクリフ・リチャードの歌唱を見直しました。ヴァンの力強い声に対して、クリフは甘い声なのですが、さすがにしなやかで力強いです。孤高のボーカリスト、ヴァンはデュエットも得意で、後に様々な歌手とのデュエット・アルバムを発表するに至ります。

 一方、ジョージー・フェイムはモリソンより少し年長ですが、ほぼ同時代のR&Bシンガーです。ここではハモンド・オルガンでの参加で、幾つかの曲に顔を出しています。この二人はよほど気が合ったようで、90年代を通して一緒に活動するようになりました。

 2年前のアルバム「ポエティック・チャンピオン・コンポーズ」とレコーディング場所もエンジニアも同じですけれども、参加ミュージシャンには少し変化があります。しかし、基本的にはいつものヴァン・モリソン節を安定して聴かせてくれます。

 ヴァン・モリソンは若い頃から円熟したボーカルを聴かせてくれていましたが、御年44歳となり、本物の円熟の味が全開となってきました。宗教的な歌詞が目立つアルバムですが、神への愛に満ち溢れた力強さがアルバムを特徴づけます。

 後に同い年のロッド・スチュワートが歌ってヒットする「ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー」も神への賛歌のようです。この曲しかり、他の曲しかり、ヴァンの歌唱にはもう何にも言えません。完成度の高い余裕の歌唱です。

 アルバムはリハーサルに2日、収録に2日とヴァン・モリソンらしい即興性を重視した制作過程となっています。参加ミュージシャンの一人は、デモなのか本番なのか、最後までよく分からなかったと言っているほどです。一筆書きで驚異の完成度です。

Avalon Sunset / Van Morrison (1989 Polydor)