「イントゥ・ザ・ミュージック」とは何とも自信に満ちたポジティヴなタイトルです。ノーマン・シーフが撮った、薄い青色のジャケットに写るヴァン・モリソンの姿は音楽の中に入りこんで忘我の状態にあるようです。この頃のヴァンの歌う姿が彷彿とされます。

 多作のモリソンです。この作品は1979年9月発表の12作目にあたります。離婚やバンドの解散、ドラッグ中毒などの困難な時期を経て、年1作の通常ペースに戻ってから3枚目のアルバムと言った方がよいかもしれません。

 このアルバムもまた「ヴァン・モリソンのファンの多くが代表作のひとつに挙げる作品」です。代表作ばかりということになりそうですが、偉大なボーカリストですから、何を歌ってもそこそこ様になるので、それもやむを得ないことだと思います。

 しかし、この作品は確かにモリソンの復活作と呼ばれた評判の良い作品です。カリフォルニアで録音された本作には、ポジティヴなエネルギーが満ちています。サウンドも明るいですし、歌詞も随分前向きです。

 参加ミュージシャンの中ではトニ・マーカスのバイオリンやマンドリンの活躍が目立ちます。彼女のプロフィールはよく分かりませんが、カントリー色の濃いバイオリンさばきがなかなか素敵です。彼女の弦がこのアルバムのカラーを決めているようにも思います。

 英米が入り乱れたバンド編成で、いかにもヴァン・モリソンらしいサウンドを聴かせます。R&B、ブルース、ジャズ、そしてちょっぴりアイリッシュなモリソン・サウンドを良く理解しているミュージシャンばかりで、タイトなアンサンブルになっています。

 有名な人はマーク・アイシャムくらいしかいないのですが、ヴァン・モリソンのミュージシャンを見る目は確かだなあと感心いたします。渋いんです。まだヴァン・モリソンは34歳です。その若さにしてこの貫禄。凄いです。

 そして特筆すべきゲスト・ミュージシャンとして、ライ・クーダーがいます。一曲だけアコースティック・スライド・ギターでの参加ですが、その「フル・フォース・ゲイル」はアルバムの代表曲となっています。こんなギターもあるのかとびっくりしました。

 さらに私には嬉しいのがザキール・フセインの参加です。極めて控えめではありますが、彼のタブラがまるでカントリー音楽の楽器か、アイルランドの民族楽器であるかのように鳴っています。ザキールが他流試合に勤しんでいた頃の作品です。

 アルバムで注目すべきはB面です。A面はキャッチーな曲が6曲並んでいるのですが、B面はどちらかと言えば地味な長めの曲が4曲。これがヴァン・ザ・マンらしいんです。即興ではないかと思わせるようなぐずぐずした歌いっぷり。真骨頂です。

 いかにも好きなように歌っている風情です。一期一会。意識の流れるままにメロディーをその場で紡いでいくかのごとき歌い方。こういう歌にはまってしまうと、もうヴァン・モリソンの世界から抜けられません。

Into The Music / Van Morrison (1979 Warner)