何やら深刻げなジャケットです。かなり内省的なアルバムを発表したヴァン・モリソンのことですから、よりシリアスなサウンドを予想してしまいましたが、けしてそうではありませんでした。ジャケットを開いてみると、そこにはとても平和な光景が広がっています。

 ウッドストックに居を構えて、家族と共に平和な日々を過ごしていた頃のモリソンです。内ジャケットには幸せそうなメンバーたちの写真に加えて、ヴァンのパートナーのジャネット・プラネットと子どもの写真が微笑んでいます。

 裏ジャケットもメンバーと共に楽しそうにしているヴァンの姿。これで暗いサウンドになるはずはありません。前作「ムーンダンス」にも増して、明るくて自由な雰囲気のアルバムになっています。

 大たい写真は息子ピーターの誕生日のパーティーの時の写真なんだそうで、当時のアメリカの田舎に住むミュージシャンたちのコミュニティーの家族的な雰囲気が写り込んでいます。モリソンの人生においても安定していた時期だったことでしょう。

 アルバムは、「ムーンダンス」の成功を受けて、その勢いにのって早めに作ってしまおうというマネージャーの提案を受けて、即座に制作されたものです。そもそもすでに書きためていた素材がたくさんあったということですから、当時のヴァンの充実ぶりが伺えます。

 バンドには、前作からの居残りが三人、新たに三人を加えて六人が集まりました。これに加えて、ストリート・クワイアと記されているコーラス隊が組織され、ジャネットを始め、サックスのジャック・シュレーヤの奥さんエレンなどが加わっています。家族的です。

 さらに、1曲だけですが、前作の「クレイジー・ラヴ」に続き、ホイットニー・ヒューストンのお母さんを含むトリオが美しいハーモニーを聴かせています。こうした共演者の選び方にとても幸せなものを感じます。ぎすぎすしていない。

 アルバムは、シングル曲として自己最高位を記録した「ドミノ」で始まります。アルバムのために書かれた曲のように思いますが、「アストラル・ウィークス」の頃に書かれた曲だそうです。そっちに入れるにはすわりが悪いキャッチーな名曲です。

 アルバムからのヒットは他に「ブルー・マネー」があります。「ドミノ」の9位に対し、こちらは23位ですから、少し見劣りはしますが、ヒットはヒットです。アルバムも32位を記録しており、前作とほぼ同じチャート位置を占めました。

 前2作に比べると、大作感に乏しいので、何となく失敗作のように捉えられがちなアルバムです。しかし、前2作が大きくなり過ぎる前の発表当時はそんなことはなかったのではないでしょうか。ヴァン・モリソンの普通に素敵なアルバムとして評論家受けもよかったようです。

 ヒット曲「ドミノ」もありますし、まだまだ20代半ばであるにもかかわらず、ヴァン・ザ・マンが、リラックスした調子で歌い上げる佳曲の数々は、もはや大御所感が漂っています。演奏も充実した力作だと思います。

His Band and the Street Choir / Van Morrison (1970 Warner)