「アストラル・ウィークス」から1年半で、またまた大傑作が誕生しました。と、今なら言えるわけですが、当時は前作はチャートインすらしていませんし、この作品も売れはしたものの、爆発的というわけではありませんでした。

 しかし、今や両作品ともにロック史上に残る名盤をリストする際には欠かせない作品になっています。確かにどちらも渾身の傑作です。ヴァン・モリソンはこの2作だけしか発表しなかったとしてもロック史に残ったことでしょう。

 ヴァン・モリソンは、前作があまりに売れなかったことから、少しは普通の形式の楽曲を作ることにしたようです。さらに、今回はメレンスタインがエクゼキュティヴ・プロデューサーにまわり、ヴァン自身がプロデューサーも務めています。

 当時、ヴァンは妻とともにウッドストックの片田舎で静かな暮らしを始めたばかりでした。当時のウッドストックはミュージシャンの交流が盛んな土地でしたから、ザ・バンドなどの渋いところとの交流も彼には刺激的だったことでしょう。

 バックを固めるミュージシャンは前作とはまるで入れ替わっています。地味なミュージシャンばかりですけれども、それぞれ腕は確かです。むしろ、ヴァンとの演奏をきっかけに活躍の幅を広げていった者も多いです。

 この人達が実にコクのある演奏を聴かせてくれます。ヴァン・モリソンの「ジャジーでヒップ、そしてブルージーな」、「ある種の極みに到達したという印象を受ける」圧巻ボーカルとの見事に融合していて、最高です。ニュアンスに富んでいて、力強い。本当に素晴らしい。

 アルバムは冒頭の「ストーンド・ミー」から「ムーンダンス」、「クレイジー・ラヴ」、「キャラヴァン」、「イントゥ・ザ・ミスティック」と超名曲が並んでいきます。アナログではA面を構成するこの5曲はいずれ劣らぬ名曲で、これだけ並ぶのはロック史の中でも珍しい。

 「ムーンダンス」はジャズっぽい曲ですけれども、前作とは全く異なり、とても親しみやすいメロディーをもった曲です。「クレイジー・ラヴ」は至高のラヴ・ソングで、数多くのミュージシャンがカバーしています。

 ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」でヴァンが「キャラヴァン」を熱唱していた姿が脳裏に深く刻まれています。こぶしを振り上げ、足を蹴り上げて歌うヴァン・モリソンはカッコいいというのとはちょっと違う男くささに溢れていました。

 B面はやや旗色が悪いのですが、それでも水準以上の普通にいい曲が並んでいます。ヴァン・モリソンは、この時、まだ24歳です。そのアーシーでソウルフルなボーカルは貫禄十分ですが、まだまだ若々しさを湛えています。どんな歌を歌っても凄いんです。

 ほぼ完璧なアルバムでしょう。前作のような神々しさはありませんが、「R&Bとジャズ、フォーク、トラッドが見事に融合した」、より我々衆生に近い作品です。見事なまでの完成度を誇るモリソン畢生の傑作です。

Moondane / Van Morrison (1970 Warner)