インドのテレビでもタレント・ハント番組は人気が高いです。いろいろな番組があり、中にはロック系のものもあります。よくこれで出てくるなと思えるへたくそな参加者も結構いて、なかなか面白いものです。

 審査員はインドのロック界の重鎮が務めることになるわけですが、彼らのスタンスは結構一貫していて、ロックはアティテュードだというものです。間違ってるとは言いませんが、1960年代ないし70年代を引きずっています。ロック共同幻想の世界です。

 というわけで、ロックに関する態度は時計を止めてしまっているかのようですが、そんな重鎮とは関係なく、インドのロック界にもポスト・ロックが存在します。このラウンジ・ピラニアがそんなポスト・ロックのバンドの一つです。

 彼らは2005年にインド南部のバンガロールで結成された四人組です。ギター2本、 ベース、ドラムとシンプルな編成ですが、ディジェリドゥという伝統的な笛を吹くゲストを招いたりしてポスト・ロックへの備えは万全です。

 ラウンジ・ピラニアが世に出るきっかけとなったのは、インドで開催されているトト・ミュージック・アウォードを2007年に受賞したことです。このアウォードはTOTOことアンギラス・ベラーニが設立した財団によるもので、若い才能への支援を目的とする志の高い賞です。

 デモ・テープを送ったラウンジ・ピラニアですが、フロントマンのカマル・シンは受賞発表の知らせを花嫁の元に向かう馬の上で聞いたという伝説の持ち主です。インドの結婚式では新郎は白馬に乗るのが恒例なんです。

 彼らは、2007年8月、アウォードの賞金とその後のコンサートの売上を元手にアルバム作りを開始しました。そして翌年発表されたのがこのアルバムです。全8曲30分強と短いですが、若いバンドとしてはなかなかの力作です。

 ラウンジ・ピラニアのサウンドはアンビエントな音響とディストーションのかかったギターが特徴です。目指すはレディオヘッドでしょうか。インドではポスト・ロックと呼ばれていたので使ってみましたが、むしろ普通にオーソドックスなロックの香りが強いです。

 インドのバンドですけれども、インド的な匂いは皆無です。インド音楽からの影響はないと言えるでしょう。しかし、ロック先進国である英米のロックとの違いは大きいです。むしろ日本のロックに近いでしょう。

 それはおそらくリズム感覚です。決して世界で受け入れられるロックのリズムではありません。ロックを外国の音楽として受け止めている国民によるロックではないでしょうか。デジタル時代になるまでなかなか世界に浸透できなかった日本のロックと似ています。

 その意味では私には違和感がなく、とても素敵な音楽に聴こえます。アマチュア的な雰囲気もなかなかよいです。彼らはこのアルバム一枚を残して解散してしまいましたから、ますますアマチュアな香りが強まってしまいました。

Going Nowhere / Lounge Piranha (2008 Mongrel)