パスピエはついに武道館公演を行うことになりました。私の世代にとっては、武道館はアーティストの一つの到達点です。プロ野球で言えば2000本安打達成のようなものです。まあ現在ではエビ中も武道館に届いているくらいですから、そこまでではないのでしょうが。

 このアルバムは彼らの三枚目のフル・アルバムです。私にとってはメジャー・デビューとなるセカンド・ミニアルバムの「ONOMIMONO」以来のパスピエです。その淡い青色のイラストに包まれたジャケットからはうってかわって豪華なカラー・ジャケットになりました。

 さらに発売形態が凄いです。私のものは通常盤ですけれども、初回限定盤にはDVD付きである上に、パスピエ謹製ふろしき付きです。以前、サザン・オールスターズのベスト・アルバムにTシャツが付いていたことを思い出しました。

 武道館といい風呂敷といい、パスピエはしばらくご無沙汰しているうちに大いに盛り上がってきたようです。おめでたい限りです。ボーカルの大胡田なつきの手掛けるブックレットも何とも素晴らしく盛り上がっています。

 メジャー・デビュー時には相対性理論+YUKIという世評をそのまま紹介しましたが、このアルバムをじっくり聴いていると、別にどちらにも似ているわけではないと思えてきました。個性がはっきりとしてきたということなのか、こちらの耳が肥えたのか、どちらかでしょう。

 パスピエのバンド名の由来はドビュッシーに由来します。「ベルガマスク組曲」全四曲のうちの最後の曲の題名が「パスピエ」です。ちなみに第三曲はかの有名な「月の光」です。さすがにそちらを持ってくるわけにはいかないでしょうし、語調はパスピエの方が素敵です。

 バンドの中心人物成田ハネダは芸大でピアノをやっていた人で、印象派が大好きだったそうです。印象派とポップの融合をコンセプトにできたバンドがこのパスピエなのだそうで、妙に折り目正しいちゃんとしたサウンドはそういうことだったんです。

 印象派の自然な不協和音と80年前後のニュー・ウェイブ・サウンドの融合が試みられているのだそうで、トーキング・ヘッズやYMOがそのルーツの一部と言われると素直に首肯できるものがあります。

 折り目正しく聴こえるのはやはりクラシックの素養が深い人ならではです。ぐずぐずのサウンド展開にはならない。不協和音も実にきっちりしている印象です。バンド・サウンドもしっかりせざるをえない。

 大胡田なつきのボーカルも力強さを増してきたように思いますし、バンド演奏もメジャー・デビュー時に比べると随分とプロっぽくなっています。自分たちの音楽に自信を深めてゴージャスにパワーアップしたということでしょう。

 青い少女が好きだっただけに、カラフルな花札ガールの世界はどうかなと思ったのですが、ブックレットの中には単色のきつね少女百態が描かれていてほっとしました。どこまでもこの独特のサウンドを追求していってほしいものです。

Shaba-Lover / Passepied (2015 Warner)