まさか再発されるとは思ってもみませんでした。トッド・ラングレンの日本独自の企画盤、というか2枚組では売れないだろうと慮ったレコード会社が1枚に編集して発表したという幻のレコードがついにCDで再発されました。

 トッド・ラングレンはその後も長く音楽活動を続けており、日本での知名度も当時とは比較にならないほど高いので、元になったアルバム「サムシング/エニシング」も2枚組のままで何度も再発されています。

 そんなわけですから、このアルバムは用済みのはずなんですが、当時のレコード会社のスタッフが企画に込めた愛が再発に導きました。何と言っても、このジャケットです。トッドの長い音楽活動を眺めてもほんの一瞬しかこういう格好をしていなかったのにこの写真。

 発表当時から、欧米のファンの間では垂涎の的となっていたらしく、日本でも中古市場ではとても高い値段で取引されていました。ところが、私は生涯で悔やまれる愚行をジャケットに施してしまったので、買い取り業者さんに残念がられてしまいました。

 背表紙に穴が開いたのでセロテープで塞いでしまったんです。明治時代の10円札がピン札で残っていたのに、二つ折りにしてしまった愚行と並ぶ、中学時代の二大愚行です。今でも自分のバカさ加減に大声で叫んでしまう恥ずかしい想い出です。

 それはともかく、選曲も素晴らしいです。A面B面の冒頭に大ヒット曲を配して、さらにA面にはバラードを、そしてB面にはセッションからのハード・ロック、パワー・ポップと飽きさせない構成になっています。

 と書いていますが、とにかく私は最も音楽に貪欲だった中学時代にこちらを買って一生懸命聞いていたものですから、こちらがオリジナルです。「サムシング/エニシング」はこのアルバムを膨らました編集盤と言えるでしょう。

 よく知られている通り、鳥は孵化して、最初に見た動くものを親と認識します。より都市伝説っぽっく言えば、男の子は初めて射精した瞬間に目に入ったものが、たとえそれがウルトラマンであっても、それを一生エロの対象として見てしまうと言います。

 そんなことがあるくらいですから、繰り返し繰り返し少年時代に聴いたアルバムを忘れられようはずはありません。音だけならば、すでに持っている「サムシング/エニシング」を編集すればよいだけなのですが、ジャケットも込みで一つの作品です。

 私としては、ワーナーの担当者さんにここで心よりお礼を申し上げたいと思います。まあ欲を言えば、紙ジャケで出してほしかったし、トッドの一言解説も復刻してほしかったわけですが、細かいことは言いますまい。

 内容的にはトッドの最高傑作と言われる作品の凝縮盤ですから悪かろうはずはない。しかもポップ全開のトッドです。「瞳の中の愛」と「ハロー・イッツ・ミー」は最高ですし、そのほかの曲も捨て曲なし。とにかくこの曲順が最高なんです。

Hello It's Me / Todd Rundgren (1974 ワーナー・パイオニア)