ボカロの世界もいろいろと賑やかになっています。巡音ルカは、初音ミク、鏡音リン・レンに続く、クリプトン・フューチャー・メディアの三代目ボカロで、初めて英語と日本語両方に本格的に対応するボーカロイドです。

 声優の浅川悠がサンプリング音声を担当していることにより、「ムーディーかつハスキーな大人の女声」になっています。私の持っているCDでの初音ミクに比べると、確かに大人の女声ですし、さらに自然な人の声に近づいたように聴こえます。

 ただ、滑舌が悪いというか、歌詞が聴きとりにくくなった気がします。ボカロ特有の癖も少ないのですが、音が外れたように聞こえる部分もあったりして、これはこれで面白いのですが、初代初音ミクも捨てがたいなと思いました。クリプトン恐るべし。

 音楽は中佐@仮免Pという名前になっていますが、これはyoshiの別名です。彼は作曲家、そしてギタリストとして活躍している方で、バークリー音楽大学を優秀な成績で卒業したというPTA受けする経歴の持ち主です。

 「仮免」というところに彼の謙虚さを感じます。ボカロP、すなわちボカロのプロデューサーとしてはかけだしだということの表明です。「尿の切れが悪い」というカミング・アウトとともに好感が持てるキャラクターであります。

 2011年からボカロ曲の創作を始め、「少しずつ人間から興味が薄れていく」yoshiの巡音ルカとの共作第一弾がこの作品です。さすがに作曲家・ギタリストとして活躍する人の作品だけに、素人とは違う手馴れたプロの技が冴えています。

 「ロック、ポップ、ジャズ、ファンク、オーケストラ、和風、スタイル別に作り上げる様々な声色と空気。病的なほど『自然』にこだわりシミュレートした臨場感、アンドロイドに生命が宿る瞬間。」と帯が熱く語ります。

 確かに、全部で5曲、スタイルはそれこそさまざまです。作詞作曲はすべてyoshiですが、「富士の山を望(み)る歌」だけは山部赤人作詞となっています。そうです。万葉集です。ピアノを伴奏にボカロが万葉集を歌うという目の前の現実に圧倒されます。1000年コラボ。

 順番が逆になりましたが、1曲目の「フォービドゥン・ブルー」は大人のジャズです。英語詞と日本語詞が自然に共存するボーカルはグルーヴィーなフュージョン・ボーカルを技とする多くの歌手とためを張っています。この世界もボカロがライバルになってきました。

 アイドル・ポップ的な世界のみがボカロの戦場ではなくなり、ジャズでもファンクでも万葉集でも百人一首でもどこへも進出してきました。2045年問題はすでにボーカル界では現実となってきたと言えるかもしれません。

 巡音ルカを得て、yoshiのギターも生き生きとしています。時折入るギター・ソロは聴き応えがあります。「引きこもり」が一番幸せという彼にとって、機材の進歩とルカの登場はたった一人でも芸術家として一生をまっとうできる素地を与えました。

Luka Luka Days Vol.1 / Chusa@KarimenP (2014 Yoshi Music)