ファウストの2枚目は真っ黒なジャケットに銀色の文字でタイトルが書いてあるだけのシンプルなデザインです。ところがどっこい、全9曲それぞれをモチーフにしたイラストが9枚付けられているという豪華仕様です。

 イラストは映画監督ヴィム・ベンダーズの当時の奥さんだったエッダ・ヘッケルによるものです。この紙ジャケ再発で見事に復刻されました。それまでの再発ではブックレット仕様になっていたりして、ここまでの豪華さがありませんでしたから、これは快挙です。

 新しいビートルズのはずだったファウストの面々ですから、あんなファースト・アルバムを出しておいて、また同じようなアルバムをレコード会社が許すはずはありません。彼らには少なくとも普通のポピュラー音楽の輪郭があることが求められました。

 ヴュメのスタジオで、ルールがないのが唯一のルールという生活を続けていた彼らですから素直に従ったわけではないのでしょうが、2枚目となるこの作品は少なくとも普通の曲の形式になっています。

 メンバーは一人減っています。ドラムのアルヌルフ・マイファートです。彼は一人だけメンバーよりもシリアスにレコード会社との契約を考えており、そのことが他のメンバーとの確執を生み、結局、出ていってしまいました。追い出したメンバーは今も反省しているようです。

 それはともかく、アルバムはやっぱり変な曲から始まります。ドラムが一定のビートを刻んでいますから、それだけでファーストよりは普通の楽曲なんですが、彼らの伝記を書いたアンディ・ウィルソン曰く「4/4というよりは1/1のビート」はかなり妙です。

 そしてクラウト・ロック研究家でもあるジュリアン・コープは最後に入るヴューストホフの間の抜けたサックス・ソロをオールタイム・フェイヴァリットに挙げています。さらに、パリでのライブで彼がこのソロを吹かなかったからという理由で有名な評論家が怒ってしまったそうです。

 B面の始めに置かれたタイトル曲も、もう少しは音楽らしいリズム・セクションが即興の背骨となるという通常の楽曲っぽいテイストです。なかなか艶のあるリズムですけれども、この楽曲はまるでカンのようです。ちょっとそれが気になります。

 全9曲、少しは常識的な楽曲群ですけれども、ファースト同様に結構やりたい放題ではあります。しばしばフランク・ザッパと比較されるのですけれども、ザッパの音楽的な意思によって編集された音楽とファウストの音楽は随分違うと思います。

 ファウストは不思議なことに他のクラウト・ロック勢に比べてもメンバーの名前が前に出てきません。恐らく音楽的なリーダーがいないからでしょう。楽曲は放り出された感があります。ロック的にちゃんとしていないんです。そこがザッパとの違いですし、ファウストの魅力です。

 全体が構成されているようで、実はちゃんと構成されていない不思議な音楽です。パーツパーツに音楽的な冒険があるわけではなく、音楽的な成熟をはなから求めていない永遠の素人の音楽。ドイツの地に咲いた異形の花でした。

参照:"Future Days" David Stubbs

So Far / Faust (1972 Polydor)