この作品は日本でも発売されました。リアル・タイムでも発売されましたし、廉価版でも発売され、私も大学時代にその廉価版を手に入れました。ヴェルヴェッツのものなら何でもほしいと思っていた頃ですから、嬉しかったものです。

 しかし、日本盤はオリジナル2枚組のA面とC面を合わせて一枚にしたLPとしての発売でした。売れないと思われたのでしょう。当時はLPがまだまだ高価でしたし、二枚組はやはり事件だと思われていました。

 もともと、マネージャーが企画してレコード会社の社員が8時間のテープから編集した作品ですから、それを半分に切ったとしてもさほど罪悪感はないということなのでしょう。メンバー自身の意見はあまり反映されていないようですから。

 データは何一つ書いてありませんが、後年、研究が進み、1969年10月と11月にダラスとサンフランシスコで行われたライブだということが判明しています。後者は後にルー・リードのギタリストともなるヴェルヴェッツおっかけのロバート・クワインが録音したものだそうです。

 メンバー構成はとてもシンプルで、ルー・リードがギターとボーカル、スターリング・モリソンがギター、モーリン・タッカーがドラム、何でもやるダグ・ユールもここではベースとオルガン、少しボーカルをとるのみです。

 間章は、ジョン・ケイルの「不在ゆえの荒廃ゆえの輝かしさと最後の夜の中の日没の闇めいたきらめきと終わりを見せている」と評しています。ヴェルヴェッツの「リキッドな解体」、 「揺れ動きながら滅び去ってゆく姿」、「オーロラにも似た『終末』」を見せていると。

 このアルバムに漂う何ともやるせない滅びの感覚、いつまでも明けない夜のイメージは、そうしたヴェルヴェッツの終末からこそやってくるものなのでしょう。このバンドは始まった時から終わりを内包していたとも言えるのでしょうが。

 二枚組で100分を超えるアルバムは音の感触が一様に染め上げられていて、トータル感が極めて強いです。代表曲が並んでいますが、いずれもこのアルバムにこそふさわしいアレンジになっています。「スウィート・ジェーン」などはとても大胆です。

 「ローデッド」にはモーリン・タッカーは参加していませんが、このライブは彼女がドラムをすべて担当しています。やはり彼女のドラムこそがヴェルヴェット・アンダーグラウンドだったのだと思わざるを得ません。

 録音のせいもあるのでしょうが、どこか霧がかかったように朦朧とした趣きのあるサウンドはモーリンのドラムゆえでしょう。ルーのリズム・ギターともスターリングのリード・ギターにもベスト・マッチです。

 ぶきぶきとしたギターの音が時代を感じさせますが、伝説度の高かったヴェルヴェッツのライブを堪能できるアルバムとしてきわめて貴重なものです。A面とC面だけの日本盤で育った私にはやや居心地が悪いですが、ここは2枚組でぜひお楽しみください。

参照:「ヴェルヴェット・アンダーグランド試論」間章

1969 Velvet Underground Live / The Velvet Underground (1974 Mercury)