ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの三作目は憑き物が落ちたように穏やかなアルバムになりました。ジョン・ケイルが去って、代わりに入ってきたのはダグ・ユール、ヴェルヴェッツの大ファンだった人物です。

 ジョン・ケイルの脱退はジョンが言い出したわけではなく、ルー・リードに追い出されたような形だったようです。残りのメンバーにとって、必ずしもハッピーな出来事ではなく、バンド内にはしこりが残った模様です。

 ケイルが脱退して、一週間で新生ヴェルヴェッツはデビュー・ライヴを行っており、さらに翌月にはこのアルバムのレコーディングを行っています。全10曲中2曲を除いて、ライヴでも演奏されたことがない新曲でした。歌もリニューアルです。

 それまではライヴで演奏されてきた曲を、スタジオでもライヴのような形で録音していたのに対し、この作品はいわば普通に作られているわけです。そんなところにも新生の意味合いがありそうです。

 アルバムはいきなりルー・リードではなく、ダグ・ユールのボーカルで幕を開けます。静かなバラード「キャンディ・セズ」です。「誰々が言う」というのはルーお得意のタイトルで、後に繰り返し出てきます。

 続く「ホワット・ゴーズ・オン」はややハードな曲ですけれども、アルバム全体を覆う空気は、前作の激しい不協和音の洪水とは大いに異なります。だからと言って、緩いわけではありません。このアルバムに漂っているのは喪失感です。

 大事な何かを失ったと感じた時に聴くと胸にしみわたってくるサウンドです。静かな狂気とでも言えばよいのでしょうか、崩れ落ちてしまう寸前の静けさを感じさせるサウンドなんです。胸に穴が開いたようなものです。

 特にライヴの定番だった2曲のうち「ペイル・ブルー・アイズ」が代表的です。不倫を扱った歌ですが、朦朧としたギターとモーリン特有の崩れたようなリズムが美しいバラードの逸品です。この曲はヴェルヴェッツのこうした側面を代表する名曲です。

 そして「ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト」の♪愛されるってどんな気分だい♪との一節がもたらす喪失感はたまりません。時に合体する「ホワット・ゴーズ・オン」の虚しいスピード感とともにこのアルバムのテーマとなっていると思います。

 ヴェルヴェッツらしく、アヴァンギャルドな「殺人ミステリー」もあるのですが、むしろ、嫌がるモーリンを無理に歌わせたという「アフター・アワーズ」のほっこりとした空気の方が、深淵を覗いています。

 おそらくはケイルの不在がそうさせているのだろうと思います。死せる孔明生ける仲達を走らすということでしょうか。その表情はまるで違いますが、前作に劣らない漆黒を湛えた作品です。ヴェルヴェッツ恐るべし。

The Velvet Underground / The Velvet Underground (1969 Verve)