「愛の残り火」の爆発力は凄かったです。男女掛け合いで両方の視点から同じ事象を歌うという、なかなかありそうでない歌詞、まだ初期のMTVに流されたドラマ性のあるPV、シンセによるキャッチーなポップ。いずれも見事にはまりました。

 ヒューマン・リーグは結成当初は実験的な作風でした。ボーカルのフィル・オーキーは極端なワンレンの髪型で、音楽の冒険とともにあった時は、その姿もパンク的な反抗の象徴であるかのように思えたものです。

 ところが、その作風は前2作で終わり、創設メンバーの二人は脱退、残されたメンバーは、クラブで踊っていた女子高生二人組を加えてオーキー中心に再出発することとしました。ちゃんと演奏できる人も必要だと、もう一人加えて、結果6人組です。

 女性二人は本当に高校生だったため、オーキーはちゃんと親に挨拶に行ったそうです。人前で踊ったことも歌ったこともない二人を採用したのはどういうつもりだったのか、考えると面白いです。もともとはコーラスを探していたらしいんですが。

 「エレクトリック・アバ」と呼ばれるようになる彼らは、プロデュースにベテランのマーティン・ラシェントを迎え、徹底的なエレ・ポップ路線に転換しました。メンバーの担当はボーカルとシンセのみです。こうなるとオーキーの髪型は単なるお洒落に見えてきました。

 実験的な作風からポップへの転換はニュー・ウェイブ時代のバンドの一つの形です。さらにそれがシンセを使ったエレ・ポップというのもこれまた典型的な道行きでした。彼らは数あるそうしたバンドの中で、当時は頭抜けて売れたわけです。

 こうしたシンセを使ったポップは彼らが始めと言うわけではありません。デペッシュ・モードやテレックス、ヴィザージなど、先達はたくさんいましたが、ヒューマン・リーグが最初にアメリカで売れたために、彼らが元祖のようになってしまいました。
 こうしたシンセを使ったポップは彼らが始めと言うわけではありませんが、シンセだけを使ったバンドとしては第一世代に属します。ゲイリー・ニューマンあたりと同世代です。しかし、その中ではアメリカで大成功を収めたため、元祖本家争いでは彼らが有利です。(事実誤認だったので書き直しました。すいません。)

 この作品はさすがによく出来ています。アメリカで受けたというのも良く分かる、分かりやすいポップな楽曲が詰まっています。オーキー自身は埋め草だと考えていた「愛の残り火」はさすがに名曲ですが、それ以外の曲もしっかりしたポップ・ソングになっています。

 女性陣の役割はレコードからはほとんど無視しうるものですから、話は余計にややこしいです。確かに「愛の残り火」はリードをとっていますが、その他の曲では時折入るコーラスのみです。学校もあったのでしょうがないのかもしれません。

 女性陣を加えたのは専らビジュアル担当なのでしょう。オーキーと二人の女性がフロントに立つ姿はなかなか意味深でしたし、何よりもPVでの活躍が目立ちます。正直、音楽的にはあまり意味はありませんが、存在自体が意味を持ったのでしょう。

 彼らはこのアルバム、むしろ「愛の残り火」の大ヒットに苛まれることになります。いきなり大ヒットを飛ばすとその後がなかなか大変です。今ではこのアルバムを高く自己評価しているオーキーですが、そう言えるまでには随分時間がかかった模様です。

Dare / The Human League (1981 Virgin)