「くっついて安心」という言葉も素敵ですけれども、「ハドル・ノー・トラブル」とはまた見事な訳です。いずれも個性あふれるバンドなので、どの二つを一緒にしても違和感がありますが、全部一緒にすると安心できるという哲学的にも解釈できる深い言葉です。

 この作品は、80年代初頭、日本でもインディーズが大きな勢力になってきた時期に出来たバルコニー・レコードから出された女性バンドを集めたオムニバス作品です。収録は4つのバンド、少年ナイフ、サボテン、D-DAY、コクシネルです。

 バルコニーのディレクター守屋正の発案で、彼が気になっていた女性バンドをリストアップし、それをまとめて板倉文がプロデュースすることになりました。板倉は当時輝いていたバンド、チャクラのリーダーを経て、歌謡界でも活躍していました。

 少年ナイフ以外の3バンドはこの作品のために板倉プロデュースで新たに録音しています。少年ナイフの2曲はかげろうレコードのコンピ盤に収録されていた曲で、音源もそれを使っていますが、ここに板倉とバ・ナ・ナが音を加えてリミックスしています。

 すなわち、ジャケットに板倉文の「エクスペリメンタル・アルバム」と書いてある通り、板倉色の強い作品になっているわけです。4つのバンドはかなり性格が違いますけれども、そのために統一感の高い仕上がりになっています。

 特にサボテンのエリック・サティからの4曲をうまくブリッジに使っているので、場面転換がとてもスムーズです。生々しい音と深い音が組み合わさっていることも統一感に寄与しています。少年ナイフのリミックスなどはこのアルバム用にはぴったりです。

 大人の事情で掲載はありませんが、ゲストとしてD-DAYの「失した遊園地」には「ラムのラブソング」で有名な小林泉美が参加しています。またバ・ナ・ナはEP-4で活躍していた人で、こちらは全面的に板倉とタッグを組んでいます。

 ガールズ・バンドとは言っても、少年ナイフとサボテンは女性ばかりですが、D-DAYとコクシネルはそれぞれ川喜多美子と野方攝という女性ボーカルを擁するものの、男も混ざったバンドです。川喜多はルックスも良くてインディーズ界のアイドルでした。

 この頃のガールズ・バンドは殿方の目を通して自己を規定するようなしがらみから自由になった最初の世代ではないかと思います。女のバンドですが、お姫様でもお嬢様でもなく、アイドルでもセクシー・ダイナマイトでもない、あるがままの女の登場です。

 復刻された豪華ブックレットには海野弘による「アリス・イン・ロックランド」なるエッセイが掲載されていて、その中で海野はこの作品には「乙女たちの天国、乙女たちの地獄がうたわれている」と書いています。

 男に理解できない女は少女と表現しておかないと安心できないのは男の性です。ありのままの女性を見つめるのは大変難しいことです。このコンピレーションをじっくり聴きながら、頭を鍛えていくしかありません。

Huddle No Trouble / Various Artists (1984 Balcony)