今となっては恥ずかしくなるほど80年代丸出しのジャケットです。この髪型、このポーズ、紙飛行機の織りなすポップ感覚、地球儀、三人のイラスト、どれをとっても80年代です。トンプソン・ツインズは80年代ポップスの特徴を凝縮したような存在でした。

 トンプソン・ツインズは1977年にイギリスで結成されたバンドで、当時のイギリスのことですから、パンクな人たちでした。「ぼくたちは世界に対して怒ってるんだ。その嘘と欺瞞に。」なんて言っていた人たちです。

 ややこしいボヘミアンから、コマーシャルなポップ・マシーンへの転向には、メンバーの入れ替えとプロデューサーの存在が必要でした。最初にその任にあたったのはスティーヴ・リリーホワイトですが、彼ら最大のヒットはアレックス・サドキンです。

 サドキンは80年代を代表するプロデューサーで、グレース・ジョーンズやデュラン・デュランなどで大ヒットを飛ばしましたが、残念ながら87年には短い生涯を閉じています。もう少し長生きしていたら、もっともっと凄いことになっていたでしょうに。合掌。

 ともあれ、この作品は彼らの4作目にあたり、全英1位、全米10位という大ヒットを記録しました。シングル・カットされた「ホールド・ミー・ナウ」は彼らの代表曲であるばかりではなく、80年代を代表する名曲です。

 この頃のツインズは、ジャケットに見える通りの三人組です。唯一の創設メンバーのトム・ベイリー、後にベイリー夫人となるアラナ・カリー、そしてシンセを操るジョー・リーウェイの三人です。作曲は3人、詩作はアラナの担当でした。

 「不思議なポップ体験してみない?」とは帯に書かれているキャッチフレーズです。さらに「ファンク、ラテン、ロックン・ロール・・・第三世界のリズムなどのあらゆるサウンド・プロダクツをデジタル感覚でコラージュ」と続きます。

 ポップな感覚の中に、ちょっとエキゾチックでデジタルな感覚を交えたキャッチーな楽曲が彼らの持ち味でした。特に、シロフォンやマリンバの音がとても新鮮に思えたものです。ドラムは打ち込み、音の処理の仕方はあの時代ならでは。80年代への郷愁を覚えます。

 英国ではこの作品から4曲もシングル・カットされています。いかに親しまれたかが分かるというものです。英国での最高位は「テイク・ミー・アップ」の2位、続いて「ホールド・ミー・ナウ」と「ドクター・ドクター」の3位、最後は「シスター・オブ・マーシー」の11位です。

 彼らのヒット曲の特徴は可愛らしいということです。前作のシングルでは、「ライズ」はそうではないのですが、「僕らは探偵団」はとてつもなくキュートでした。今回の代表曲「ホールド・ミー・ナウ」と「ドクター・ドクター」の可愛らしさったらありません。

 パンクのくせにタンタンから名前をとってデビューした彼らですから、もともとそういう素地があったのでしょう。怒りから可愛さへのサウンド転換で見事な大成功を収めました。当時、音楽を志す多くの若者に影響を与えました。

Into the Gap / Thompson Twins (1984 Arista)