邦題は「ショルティの序曲集」となっている通り、この作品はデッカ専属だったゲオルグ・ショルティ指揮ロンドン交響楽団によるロシア人作曲家による作品から序曲を中心にした演奏を集めた作品です。

 原題は「ロマンティック・ロシア」となっているのですが、この演奏をロマンティックというのであれば、私のロマンティックという言葉の定義を変えねばなりません。いかにも勇壮でいけいけの演奏が繰り広げられています。

 含まれている楽曲は、まずはロシア国民楽派の祖といわれるグリンカのオペラ「ルスランとリュドミラ」から序曲です。プーシキンの叙事詩をもとにしたおとぎ話オペラの第一号と言われる作品だそうですが、序曲は最初からテンションが全開です。

 かなり派手な楽曲ですから、景気づけにはもってこいです。オーケストラもこういう作品を演奏すると気持ちがよさそうです。目まぐるしい展開ですが、わずかに5分強の楽曲ですから、まるでハード・ロックのようです。

 そして、ロシア五人組の一人ムソルグスキーの遺作オペラ「ホヴァーンシチナ」から前奏曲と交響詩「はげ山の一夜」の2曲が続きます。いずれもムソルグスキーの旧友リムスキー=コルサコフによってアレンジされた作品です。前者は完成したのが彼らです。

 次いで、同じくロシア五人組のボロディンによるオペラ「イゴール公」から序曲と「ダッタン人の踊り」です。ポロヴィッツ人の踊りと書いてありますが、これがダッタン人のことのようです。ダッタン人は「タタールの軛」で有名なタタール人のことです。

 いずれも派手な曲ばかりです。ロマンティック・ロシアというからには、作曲者がロシア人というだけではなくて、楽曲もロシア的なものだと解釈するしかありません。ロシア人という人々はこういう人たちなんだなと学ぶべき作品だと言うことになりますか。

 指揮するのはサー・ゲオルグ・ショルティです。彼はデッカ専属だったために、私の持っているデッカのボックス・セットの中には彼の作品が多いです。結構日本では不人気だったりするようですけれども、私にはそこらあたりはよく分かりません。

 ショルティはシカゴ交響楽団の指揮者になりますが、これは1966年ですから、その前ということになります。同じくデッカの定連だったロンドン交響楽団とともにロンドンのキングスウェイ・ホールでジョン・カルショーによって録音されています。素晴らしい録音です。

 鳴り響くオーケストラを聴いていると何とも気分が高揚してきます。結構運動会向きではないでしょうか。騎馬戦とか玉入れとかそういう団体での対戦形式のゲームが似合います。ロシア人と戦い、何となくイメージが合ってきました。

 クレヨンで描いたようなロシア風宮殿のジャケットが秀逸です。もう少し武骨な音楽を想像していましたが、アゲアゲのテンションながら、実に端正で丁寧な演奏だと思います。そこらあたりがショルティの持ち味なんでしょうか。

Romantic Russia / Georg Solti, London Philharmony Orchestra (1966 Decca)