このアルバムのザ・ムーヴ、すなわちロイ・ウッドとジェフ・リンが揃っているザ・ムーヴはやがてエレクトリック・ライト・オーケストラになっていきますから、ザ・ムーヴはELOの前身バンドと観念されています。

 しかし、お騒がせバンドとしてのザ・ムーヴの成長した姿と見ることも可能です。ロイ・ウッドを中心にバーミンガムで結成されたザ・ムーヴはトニー・セクンダのマネジメントを得て、何でもぶっ壊すバンドでした。

 ステージでテレビや車を壊したり、ヒトラーの写真を燃やしたりと過激なパフォーマンスで売り出したわけです。しかし、悪戯が過ぎて、時の首相に訴えられるに至り、マネジャーも交代するとようやく落ち着きました。

 当時残っていたのはロイ・ウッドとドラムのベヴ・ビヴァン、それに途中で加わったベースのリック・プライスの三人でした。そこにアイドル・レースというバンドでポール・マッカートニーの再来と言われていたジェフ・リンをリクルートしてラインナップが揃います。

 そして発表されたのがこの作品です。もともと定評のあるロイ・ウッドのポップ感覚に加えて、同傾向ながら少し異なる感覚のジェフ・リンが加わったことで、両者は競い合うようにプログレッシブなポップ・ソングを生み出しました。

 紙ジャケで再発されたこの作品には、10曲ものボーナス・トラックが収録されています。そのうちの4曲はこのアルバムの直前に発表されていたシングル曲ですから、とても丁寧な編集だといえます。

 全英1位となった「ブラックベリー・ウェイ」を含むそれらシングル曲はジェフ・リンは加入前です。いい曲揃いですけれども、こうしてアルバムに並べられるとアルバム曲との違いが際立って面白いです。

 それほどこのアルバムはかっちりとまとまった作品なんです。全部で7曲、ポップなバンドとしてヒットを連発してきた彼らにすれば長めの曲がほとんどです。しかもその中にはさまざまな音楽スタイルがごちゃまぜになっています。

 使われている楽器もオーボエやシタール、チェロなど、ポップス作品ではあまり見られないものが含まれており、意地でも手を加えまくるぞという意気込みが感じられます。一手間も二手間もかけて捻っていく、そんな作業が続いたことでしょう。

 クレジットがジェフ・リンとなっているのは2曲のみですが、ロイに多少は遠慮しつつも、まるでプログレッシブなサウンド展開を見せて秀逸です。ロイ・ウッドが4曲、ベヴ・ビヴァンが1曲と、後のELOへの橋渡しともなっています。

 禿げ頭を上から撮影した皮肉たっぷりなジャケットとともにザ・ムーヴのへんてこりんなアルバムとして記憶される作品です。彼らのカタログの中でも売れていない方に入るそうですが、記憶に残る度合いは一番ではないかと思います。

Looking On / The Move (1970 Fly)