スタバと言えばスターバト・マーテルだ、なんて言ってみたいです。スターバックスって何?なんて。それにしても「スターバト・マーテル」とはキャッチーなタイトルです。もっともっと人気が出てもよいと思います。

 「スターバト・マーテル」は十字架に架けられたイエスの傍らで、聖母マリアが悲嘆にくれる様子を描いた聖なる詩のことです。古今の多くの作曲家がこの詩に曲を付けており、そのどれにも駄作はないと言われています。

 これは、26歳の若さで亡くなったイタリアの作曲家ジョバンニ・バティスタ・ペルゴレージによる「スターバト・マーテル」です。ペルゴレージの最晩年の作品です。彼は結核に侵され、最後の力を振り絞ってこの作品を書き上げ、まもなく息を引き取りました。

 このように、若くして死を目前にした作曲家が、悲嘆にくれる聖母マリアを題材にして作った曲なのですが、モーツァルトに音楽を教えたマルティーニ神父が、まるでオペラ・ブッファのようだと批判したと伝えられています。

 オペラ・ブッファはペルゴレージがその先駆者と言われる喜劇オペラのことですから、この作品への批判としては痛烈です。敬虔な宗教歌を喜劇と言われては立つ瀬がないのですけれども、私はこの神父さんの発言はよく分かります。

 流れるような旋律に乗せて、ドイツのカウンター・テナー歌手アンドレアス・ショルとソプラノのアメリカ人バーバラ・ボニーの二人が素晴らしい歌唱を聴かせるこの曲は、きわめて美しいです。その美しさが人間くさい。そこを突いた神父さんの発言でしょう。

 ということは、現代の文脈で解釈すれば、この神父さんの発言は賛辞でこそあれ、批判ではありません。ミサ曲ではなくて、ミュージカルだと言っているようなものです。まあ、神父さんは心の底から怒っていたのでしょうけれども。

 本作品を指揮するのはクリストフ・ルセ。フランス生まれのチェンバロ奏者としても有名な方です。演奏しているのは、そのルセが1991年に創設した、古楽を演奏する団体レ・タラン・リリクです。

 ペルゴレージは時代的には大バッハとモーツァルトの間に位置する人ですから、古楽と言えば古楽なんでしょう。バロック期ですが、古典主義的とも評される立ち位置にいます。しかし、わずかに26歳で亡くなるとは何とも惜しいです。しかも結核。

 そんなペルゴレージ畢生の作品を歌う二人はとても軽やかで素晴らしい。声楽曲ではありますが、ミュージカル的に聴けてしまいます。とても現代的だと言える仕上がりになっていて、声楽特有の敷居の高さがありません。

 カップリングはサルヴェ・レジナというこれまた宗教曲ですが、「スターバト・マーテル」と並んで違和感がありません。神父さんはこれもまたオペラ・ブッファだと言うかもしれません。この作品を聴いて、思わぬ良い出会いを感じました。声楽嫌いにお薦めの作品です。

Pergolesi : Stabat Mater / Christophe Rousset, Andreas Scholl, Barbara Bonney (1999 Decca)