クレモンティーヌの「アニメンティーヌ」はオリコン洋楽チャートで1位となるなど、日本でのセールスは極めて快調でした。そこで、「日本国民の熱いご要望により続きました」と在日フランス大使館も後援して、「続アニメンティーヌ」が発表されました。

 しかし、発表のタイミングは最悪でした。2011年3月9日です。そうです。東日本大震災の二日前です。発表そうそう日本中が喪に服した期間が続いた中で、「思わず『クスッ』『ニヤリ』とする絶妙なカヴァー」は肩身が狭かった。

 恐らくそのことが大きかったのだと思います。この作品は5月25日に「制作側の都合で」曲順を入れ替えた上に、「およげ!たいやきくん」を削除した新バージョンに衣替えしました。本当の事情は分かりませんが、やはり一度仕切り直したいということだったのでしょう。

 私自身も発売時に予約して買ったものですから、前作はよく聴いたにもかかわらず、本作はあまり聴いておらず、何だか申し訳ない気がしています。そういう思いを胸に聴いてみますと、クレモンティーヌはクレモンティーヌでした。
 
 前作の成功を糧に、本作は「ツイッターで一般より募集して厳選された、完全新作」です。「宇宙戦艦ヤマト」に、「新世紀エヴァンゲリオン」から「残酷な天使のテーゼ」、「銀河鉄道999」、「シティーハンター」から「Get Wild」と来ると前作との違いを感じます。

 ほんやらしたボッサのタッチからは程遠いこれらの楽曲が並ぶとすると、これはファンからクレモンティーヌへの挑戦状だったのではないでしょうか。「まさかこれはボッサにはならんやろ」と投票した人が多かったのでしょう。

 一方で、「となりのトトロ」の「さんぽ」、「アルプスの少女ハイジ」の「おしえて」、「アンパンマンのマーチ」、「キテレツ大百科」の隠れ名曲「お料理行進曲」など、前作をそのまま踏襲した楽曲です。

 クレモンティーヌはさすがに懐が深く、どの曲も見事に「オシャレでアンニュイなボッサになって」います。幼少の頃から世界のあちこちで生活してきた彼女は、世界中の音楽を受容する素地がしっかりしているのでしょう。見事なものです。

 今回、「おしえて」はクレモンティーヌが日本語で歌っています。ボートラでデュエットを利かせている斉藤和義のフランス語の歌と比べると、申し訳ありませんが、世界人クレモンティーヌの勝ちでしょう。可愛らしい日本語です。

 それにしても仕切り直し盤からの「およげ!たいやきくん」の削除が惜しまれます。やはり時節柄、歌詞がまずかったのでしょうか。注意深く聴かないとなかなか「およげ!たいやきくん」だとは気づかない名カバーだと思うだけに残念です。

 クレモンティーヌは震災後いち早く応援を開始、避難所を慰問した初の外国人アーティストになりました。8月には日本を元気にするために「バラエンティーヌ」を発表しています。本当に素敵な人です。

Zoku Animentine / Clémentine (2011 Sony)