オンリー・ワンズの三枚目にして最後のスタジオ作品です。今回は売れるようにコマーシャルなアプローチをとったとピーターが語っている通り、プロデューサーに当時気鋭のコリン・サーストンを起用しました。

 コリンは、ちょうどデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」とイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」のエンジニアを務め、初めてのプロデュースとしてマガジンの「セカンドハンド・デイライト」を仕上げたばかりでした。デュラン・デュランでの成功は少し後のことです。

 そのせいもあるのでしょう、前作とは随分と音が違います。すっきりしたと言いますか、ねっとりとした濃密な世界から、突き放したような不思議なポップ感覚の世界に変わってきています。よりシンプルなサウンドです。

 この作品は、当時日本盤も発売されました。そこでは「自殺教唆」なんていう邦題がつけられた「ホワイ・ドント・ユー・キル・ユアセルフ」が話題になりました。電話で綿々と文句を言う女友達に対して、♪死んじゃえば?役立たずなんだから♪。実話だそうです。

 もちろんその友達は自殺したわけではないのですが、このアルバムを覆うトーンはその突き放した感じです。この曲は実はとてもカッコいい曲で、そのサウンドはとても60年代的です。ギターの響きがニューヨーク・パンクっぽくて素敵です。

 アルバムにはゲストとして、ポーリン・マレーが参加しています。彼女がパンク・バンドのぺネトレーションを経て、ソロでインヴィジブル・ガールズと名作を発表した頃です。「フールズ」でのデュエットを始め、彼女の繊細な声はピーターと妙にマッチしています。

 当時、私はこのポーリンが大好きで、オンリー・ワンズのアルバムに参加していると聞いて、大変楽しみにしていたんです。決してメジャーと言えない二人のコラボは二人のファンにとってはスーパースターの共演以上に嬉しいものでした。

 しかし、このアルバムは曲順もバージョンによって違いがありますし、前作に比べれば、どこかやっつけ仕事の観があります。アルバムとしてのまとまりという点では明らかに前作に劣ります。しかし、妙にドライな曲の数々はそれぞれが輝いています。

 「リユニオン」などは何と言うことのない楽曲なのですが、どういうわけか30年以上たっても私の頭の中から出ていく気配はありません。今でも口をついて出てくることがあります。どの楽曲も妙な引っ掛かりがあるんです。

 ジャングルのパーカッションのような「ミー・アンド・マイ・シャドー」、裸のベースラインが光る「デッドリー・ナイトシェイド」、前作の「インビトゥーン」の続編と言える、より朦朧とした「ビッグ・スリープ」など、捨て曲はありません。

 しかし、アルバムとしてはまとまっていない。充実しているんでしょうが、その充実が持続していない印象です。それにもかかわらず、私の生涯における名盤リストの上位に位置するアルバムです。全くどうにも始末に負えない変な作品です。

Baby's Got A Gun / The Only Ones (1980 Columbia)