♪ちょっと振り向いてみただけの異邦人♪。名曲です。昭和歌謡史上に残る名曲だと思います。サブタイトルに「シルクロードのテーマ」と付けられた通り、どこかシルクロードを思わせる異国情緒が素晴らしい楽曲でした。

 しかし、シルクロードってどこでしょう。何せシルクロードは長大ですから、人それぞれ思うところがあるのかもしれませんが、概ね中央アジアからイラン、コーカサスあたりが衆目の一致するところでしょう。

 この曲が発表された1979年当時は中央アジアはまだソ連でしたし、実際に行ったことがある人は大変少なかったと思います。それでも鮮やかにシルクロードを思わせた功績は見事です。ダルシマーを使った編曲もそうですが、メロディー・ラインが決め手でした。

 この戦略はプロデューサーの酒井政利によるもので、ジュディ・オングのエーゲ海に続く異国情緒路線なのだそうですが、このメロディーにシルクロードを見た酒井の感性はさすがだと言わざるを得ません。

 久保田自身は、子どもの頃にお父さんがイランから買ってきたレコードを聴いていたそうですし、ディレクターの金子文枝に勧められたアマリア・ロドリゲスにも影響を受けたそうです。素直な性格の人なのだなと思います。

 このアルバムは久保田早紀のデビュー・アルバムにして、50万枚を売り上げる大ヒットとなった作品です。含まれている「異邦人」はミリオン・セラーになっており、その勢いをかって年間チャートでも4位に入るという大ヒット作品です。

 基本的に作曲は久保田本人、編曲は荻田光雄、作詞は久保田と山川啓介の組み合わせです。荻田光雄は「シクラメンのかおり」でレコード大賞編曲賞を受賞した人ですし、山川啓介は「太陽がくれた季節」や永ちゃんの「時間よ止まれ」が有名な歌謡界の大物です。

 アルバム全体をシルクロード方面に持って行こうとする戦略がやや面倒くさい感じがしますが、美貌の新人シンガー・ソング・ライターのデビュー作品として力が入っていたことが分かります。しっかりミュージシャンのクレジットもあり、良心的なつくりです。

 しかし、アレンジがカッコいい「サラーム」はギターの音色が耳を惹くのですけれども、なぜかギタリストのクレジットがありません。何か大人の事情でもあるのでしょうか。とても素敵な音色なので、思わずブックレットを見たのですが...。

 「ギター弾きを見ませんか」はファドを正面から歌った歌ですし、全体に少しひねりのあるニュー・ミュージックとして人気を博しました。デビュー作でこの人気は本人に重圧を与えたことは疑いなく、この後の活動はいろいろと大変だったことでしょう。

 ユーミンをして、この子はこれ以上の曲を作れないだろうと言わしめたという伝説が残っている「異邦人」を擁するアルバムとして、永遠に歴史に刻まれる作品です。生涯に一枚こういう作品を残せればそれだけでも良いのではないでしょうか。

Yume Gatari / Kubota Saki (1979 CBSソニー)