ポポル・ヴーも9作目になりました。今回はまたしてもヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画作品のサウンドトラックです。しかし、ジャケットにはサントラであることを示す表記は全くありません。しかも、美しい雲の写真は吸血鬼とは全く対極にあります。

 フローリアン・フリッケの数少ないインタビューによれば、この作品は映画「ノスフェラトゥ」のために制作された作品のようですから、これまでの作品よりも純正サントラっぽいのですけれども、そうではない体裁になっているところが面白いです。

 しかし、「ノスフェラトゥ」の絵をあしらったジャケットでも発売されているようですから話がややこしいです。さらにフランスのエッグ・レーベルからサントラ第二弾が出されており、それと一緒にした編集盤もあったりして、複雑なディスコグラフィーとなっています。

 ライナーノーツも混乱していますが、手元にある紙ジャケ再発盤はドイツのブレイン・レーベルから発表されたオリジナルのようです。先ほど書いた通り、バージョン違いもありますから、はなはだ心もとないですが、こちらをオリジナルとしておきましょう。

 ここでのポポル・ヴーは、フローリアンとダニエル・フィッヒェルシャーに加えて、シタールのアル・グローマー、タンブーラのテッド・デ・ヨン、オーボエのボブ・エリスクというメンバーです。お初の人は一人もいません。

 最大の出来事はボーカルです。ここではミュンヘン教会合唱団が参加しています。もともとヨン・ユンやレナーテ・クナウプなどの美声の女性歌手をフィーチャーしていましたが、今回は本格的に荘厳な合唱を入れてきました。

 天使のボーカルもよいのですが、重厚な敬虔となると、それはもう合唱でしょう。これは見事な効果をもたらしています。ポポル・ヴーが新段階に入ったことを象徴的に表していると思います。声楽への興味はこの後の彼らの大きな柱になっていきます。

 今回はダニエル・フィッヒャルシャーのギターとパーカッションはあまり目立っていません。特にパーカッションはクレジットもされていません。それよりもフローリアンのピアノやエリスクのオーボエの魅力が全開です。そしてシタールとタンブーラが背景音として腋を固めています。

 A面はタイトル曲一曲で占められています。長尺ですけれども、構成の妙味と合唱の魅力が詰まっていて、素晴らしいです。ポポル・ヴーの新たなステージという気がします。映画にも使われているようですが、どのような場面なのか気になります。

 B面は小曲集の面持ちですけれども、今回はアモン・デュールっぽくはなく、むしろ「ホシアナ・マントラ」もかくやと思われる静謐な空気が支配しています。決してロック的ではなく、よりアンビエントなトラックが並んでいます。

 本当に吸血鬼ノスフェラトゥのための音楽なのでしょうか。ヘルツォーク監督の映画は見たことがないので、偉そうなことは言えませんが、この美しい天上の音楽が吸血鬼の映画を飾るという事実だけで何やら得体の知れなさを感じます。

Brüder Des Schattens-Söhne Des Lichts / Popol Vuh (1978 Brain)