ポポル・ヴーの作品の中で実は最も有名な作品かもしれません。ヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画「アギーレ・神の怒り」のサウンドトラック・アルバムです。ポポル・ヴーによるヘルツォーク監督との一連のコラボ作品はこれを最初とします。

 フローリアン・フリッケは映画関係の仕事をしていた時にヘルツォークと知り合い、そのマヤの本家ポポル・ヴー趣味を共有して仲良くなりました。ヘルツォークはフローリアンについて「創造的な仕事において、彼は私の一番の友人だった」と語っています。

 映画の公開は1972年のことですから、サントラの制作も当然その頃のことです。しかし、頭が痛くなるほどこのアルバムには曰くがあります。まず、発表されたのも74年なのか75年なのか76年なのか諸説あります。

 映画に全く使われていない曲も2曲入っており、それは「聖なる賛美」と「一人の狩人と七人の狩人」に収められていた曲の別バージョンです。すなわち映画公開後です。さらにアルバム自体にもバージョン違いがあります。収録曲も違う。

 ミュージシャンのクレジットは前作「雅歌」をそのまま写していますが、72年当時は違ったはずです。このアルバム発表の事情については「思い出したくもない」とフローリアンが語っているので、いろんな事情があったのでしょう。

 映画曲は、ポポル・ヴーがまだエレクトロニクスを使っていた頃です。ここではどうもはっきりしないのですが、ボーカルをテープにとったものを演奏しているようで、要するにメロトロンのような楽器が使われている様子です。

 ムーグ・シンセサイザーもばりばり活躍しています。全体にドローンを据えた構成になっていて、特に「写実」などは、まるでアンビエントなエレクトロニカになっています。エレクトロニクスを辞めた後のポポル・ヴーとは大きく異なるサウンドです。

 ところが、面白いことに「朝の挨拶II」などのダニエル・フィッヒェルシャーが参加したアコースティック曲は、とてもいいアクセントになっています。そうしてこのアルバム全体を大変効果的に締めています。

 ポポル・ヴーは何かと主題を見つけてきてはアルバムをまとめてきたので、もともとサントラ向きです。アーティスティックに意気投合した監督とのコラボでは、主題が向こうからやってくるわけで、まさに水を得た魚です。とても生き生きとして素晴らしい。

 映画自体も傑作なようです。残念ながら未見なので偉そうなことは言えませんが、狂気に取付かれていく主人公の物語に、このような天上を目指す音楽をマッチングさせたところに監督の目の付け所が分かります。

 ポポル・ヴー作品のうち、どれか一つお薦めをと問われれば、私は迷わずこの作品を推します。エレクトロニクス時代とアコースティック時代のベスト・マッチが楽しめるとても美しい作品です。このミックス路線を突き詰めてくれれば良かったのにと思ってしまいます。

Aguirre / Popol Vuh (1975 Ohr)