ポポル・ヴーの次なるテーマは「ソロモンの雅歌」でした。ヘブライ聖書の中にある男女の性愛を讃えた歌として、旧約聖書の中でもかなり異色な書です。あまりキリスト教らしくない一節をテーマとするとはなかなか曲者です。

 アルバム中には、「我らを引き付ける玩具」「いとしき妻」「夜の街路にて」「あなたの愛はワインのように香しい」「汝のキスは汝自身が味わう」という曲が並んでおり、性愛と言われるとなるほどと思わせるタイトルばかりです。

 そして、「ダビデの息子」という曲もあります。ダビデの息子はソロモンのことですから、「雅歌」そのものの作者です。そもそも本アルバムの作詞のクレジットは、「ソロモン王」となっています。

 ポポル・ヴーはこれまでもそうでしたが、自分で詩を書くのではなくて、基本的には聖なる書物から拝借してきています。ドイツ語なので、まるで分かりませんが、今回も「ソロモンの雅歌」そのものを歌っているのでしょう。

 ♪ホシアンナ♪と繰り返す曲もあります。これがなかなか素晴らしいです。歌っているのはお馴染みの朝鮮人女性歌手ヨン・ユンです。美しいソプラノ・ヴォイスです。今回、初めて裏ジャケットに写真が掲載されました。

 本作のメンバーは前作と同じく、フローリアン・フリッケ、ダニエル・フィッヒェルシャー、そしてヨン・ユンの三人です。さらにゲストとしてシタールのアル・グローマー、タブラのシャナ・クマールが参加しています。

 シタールとタブラを使っているわりには、そこまで強くインド的な雰囲気は感じません。これまでもタンブーラを使ったり、コンガをタブラのように叩いていたので、違和感がないということですから、もともと東洋的な雰囲気が少しあるのでしょう。急展開したわけではない。

 サウンドは前作の延長にありますが、さらにポップの度合いを増しています。ベース・レスなので、あからさまではありませんが、かなりロック的になってきました。男女の性愛を描いたとなると普通のロックと同じですから、サウンドもそうなるのでしょう。

 フィッヒェルシャーのギターは少しファイトのギターに似てきたようにも感じます。処理の仕方が変わったのでしょうが、明るくなってきました。ユンのボーカルは伸びやかなのですが、もう少し歌う場面が多くてもよかったのになと思います。

 荘厳で敬虔というポポル・ヴーのイメージは残りつつも、比較的普通のロックっぽくなってきているので、クラウト・ロック・ファンからはやや疎んじられてきた頃です。恐らくフローリアンはまっすぐな人なのでしょう。変に考えずに我が道を歩んでいます。

 紙質にもこだわった、ちょっとパウル・クレーの要素も入れたサイケデリックな美しいジャケットは、楽園を思わせます。アダムとイブなのでしょう。「ソロモンの雅歌」を絵画的に表現したと言えます。我が道を行くフローリアンは余裕綽々です。

Das Hohelied Salomos / Popol Vuh (1975 United Artists)