スキャンしたジャケットではほとんど分かりませんが、ジャケットにはフランク・ザッパのトレードマークとなっている口ひげとあごひげがふさふさしています。題字はザッパ・ファンで知られるシンプソンズの作者マット・グローニングの手になります。

 この髭は取り外して付けてみるように指示が書かれています。ただし、外すとジャケットが台無しになってしまうので、もう一枚買うよう指示されています。この解説を書いたのはザッパさんの息子の一人アーメットです。

 この作品はもう一人の息子ドウィーゼルが監修したもので、ギタリストとしてのフランクへの業績を讃えるために企画されたものです。自身ギタリストとして活躍するドウィーゼルによって、すべてのフランク・ザッパ・ファンに捧げられた何とも心温まる企画です。

 ザッパ先生は自分にとって特別な曲を尋ねられて、「ブラック・ナプキン」、「ズート・アルアーズ」、「イースターのスイカ」と三曲のギターによるインストゥルメンタル作品を挙げたことがあるそうです。これが彼のテーマ・ソングだというのです。

 そこでこの作品では、3曲それぞれの「できるだけ早い時期の未発表録音」とアルバムで発表されたバージョンとの二つのパターンを聴き比べられるように並べて収録してあります。そして途中で一曲「単なるブルース」が箸休め的に置かれています。

 「ブラック・ナプキン」は1975年11月スロベニアのリュブリャナでのライブと、アルバム版はご存じ翌2月の大阪でのライブです。そして注目は「ズート・アルアーズ」の東京公演の音源です。多少録音状態がよろしくないのですが、これは貴重です。

 「イースターのスイカ」は1978年初頭の録音が初出音源です。ここではドラムがテリー・ボジオで、アルバム・バージョンはヴィニー・カリウタとなっていて、ドウィーゼルはこのドラムの違いがフランクのギターに影響を与えることに驚いています。

 確かにギター・ソロはリズム・セクションとギターの戦いですから、ドラムの影響は大きいです。特にテリーとヴィニーはタイプが全然違うので、ザッパ先生のプレイ・スタイルも相当違っています。私は、やはり聴き慣れたアルバム・ヴァージョンのほうが好きです。

 「単なるブルース」は1974年バンドが、パリでのコンサートで、アンコールでやる曲がなくなって、「迷った時はブルースを演奏しろ」という原則に従って演奏したものです。意外なことにブルースのフォーマットに従ったギター演奏になっていて、そこがかえって珍しいです。

 さて、問題の3曲ですが、誰しもが認める名曲「ブラック・ナプキン」と涙なしには聴けない「イースターのスイカ」はともかく、「ズート・アルアーズ」は少し意外です。他にもギターの名曲は数々ありますが、この曲の最初のフレーズが先生のお気に入りだったんでしょう。

 フランクはギター・ソロのことを空間彫刻と好んで呼んだそうですが、ここでの三曲は完全な即興でもなく、しっかりしたメロディーを持つ曲ばかりで、しっかりと彫琢された音像をもっていますから、その言葉が最もしっくりきます。あらためてフランクのギターに惚れました。

Frank Zappa Plays The Music Of Frank Zappa / Frank Zappa (1996 Barfko Swill)