何と言っても「さかしま」です。数ある邦題の中でもこれは傑作の部類に入ると思います。原題は「サイコモード」で、サイコとノートルダムのせむし男カジモドの合成だそうですから、「さかしま」とは何の関係もなさそうです。それゆえに傑作だと思います。

 私は、むしろこの作品に影響されて、ユイスマンスの「さかしま」を読んだ口です。日本にはそういう方が結構いらっしゃるのではないかと思います。順番のせいもあるのでしょうが、読んでみて、まさに「さかしま」だなと感じました。

 「デカダンスの聖書」とも呼ばれる「さかしま」で、ユイスマンスの描く美と頽廃の人工楽園はこの作品の目指す世界でもあったのではないかとすら思えてきます。涙が一筋流れる傑作ジャケットとともにアルバムの完成度は極めて高いです。私も大好きです。

 コックニー・レベルのデビュー作は「悲しみのセバスチャン」が大陸で大ヒットしたにもかかわらず、英国ではチャート・インすらしませんでした。彼らの音楽は自己陶酔的な世界観に彩られていますから、そうなるとプレスの格好の餌食になりました。

 それにジャーナリスト出身のスティーヴ・ハーリーが逐一反論したものですから、今で言えば炎上してしまいます。これは逆に彼らに注目が集まるきっかけともなり、そんな中で発表された2作目である本作はめでたくトップ10入りするヒットとなりました。

 シングル・カットされた「ミスター・ソフト」もトップ10入りしており、コックニー・レベルはこのアルバムで人気の絶頂を迎えることになりました。作品自体も、「悲しみのセバスチャン」のような目立つ曲はありませんが、その分、トータルなアルバムとしての完成度が高いです。

 「ミスター・ソフト」は特にそのアウトロのところが極めて特徴的で、ボードヴィル調のメロディーが美しく、結構な頻度でテレビなどでのBGMに使われています。キャバレー文化を感じさせる素晴らしい曲です。

 帯には「英国デカダンス・ポップ」と紹介されていますが、それを端的に示すのが、「パステル・カラーのデカダンス」と「偏執的ノスタルジー」の2曲の大曲です。まるで演劇を見ているような気分にさせる頽廃的なポップ・ソングです。

 彼らのサウンドではジャン・ポール・クロッカーのバイオリンの魅力も大きいです。フィドルでもなくクラシックでもないその音は、ギターを中心とするロックの世界とは一線を画していて、スティーブの傷つきやすそうなボーカルを見事に彩っています。

 コックニー・レベルはスティーヴが自分の世界を表現するためにメンバーを雇ったバンドなのですが、どうしてどうして演奏はとてもシャープです。これでは雇われには満足できないでしょう。案の定、このラインアップはここで終わってしまいました。

 グラム・ロックの絶頂期はすでに去り、コックニー・レベルはポスト・グラムと呼ばれました。しかし、同じ年にはベイ・シティー・ローラーズがデビュー作を発表しており、ポスト・グラムにはローラーズ旋風が吹き荒れます。それを考えあわせると何とも間が悪い人たちでした。

Psychomode / Cockney Rebel (1974 EMI)