モータウンはレコード・レーベルですけれども、アーティストのプロダクションと言った方がよさそうです。日本で言えばジャニーズやハロプロ的なイメージです。専属のソング・ライターがいる点ではハロプロに近いですか。

 スモーキー・ロビンソンは初期のモータウンを一人で支えたと言っても過言ではない人です。高校時代からミラクルズを結成して歌い始めたスモーキーに才能を見出したのがモータウンを興したベリー・ゴーディでした。

 ゴーディがミラクルズのデビューを手助けして、二人の関係は深まり、ゴーディ社長、スモーキー副社長体制でモータウンが発足します。初期のモータウンのヒットはほとんどスモーキーが係わっているそうですから凄いです。

 ミラクルズはモータウン初の全米ブラック・シングル・チャート首位となる「ショップ・アラウンド」を始め、数々の大ヒットを飛ばしましたが、スモーキー・ロビンソン&ミラクルズに改名して初となるこのアルバムが最大のヒットとなりました。

 全12曲のうち1曲を除くすべての曲がスモーキーの手になる曲です。スモーキー・ロビンソンは歌手として、またプロデューサーとしても天才的な手腕を発揮する人ですが、何よりもソング・ライティングが凄い。

 さらにその中でも作詞家としての才能がずば抜けているとの評価です。ボブ・ディランが「スモーキー・ロビンソンはアメリカで今生きている最も素晴らしい詩人である」と発言しているほどです。冗談ではなく、本気の言葉です。

 ピーター・バラカンさんが、著書でこのアルバムの冒頭の一曲「ザ・トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」を例に挙げて、いかにスモーキーの書く詞が名人芸か解説しています。英語の歌詞はほぼ例外なく韻を踏むものですが、韻を踏んでなお自然というのは難しいものです。

 ところがスモーキーは「ごく自然な会話調の言葉を使って、聴き手の一人一人に直接語りかけているようにスムーズに聴かせてしまいます」。確かにこの曲の歌詞は素晴らしすぎます。拙い訳では魅力をお伝えできないので止めておきますが。

 このアルバムからは他にも3曲、合わせて4曲がトップ20に入るヒットとなっています。そのうち、「ウー・ベイビー・ベイビー」や「ゴーイング・トゥ・ア・ゴーゴー」、「ザ・トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」は他人によるカバーでもチャートインしています。

 カバーした中には、リンダ・ロンシュタットやローリング・ストーンズなどの白人もいます。まさにスタンダードになった楽曲だということで、ソウルを感じるものの比較的素直な歌声とその洒落た歌詞が垣根を低くしているものと思われます。

 モータウンの副社長の最も脂の乗った時期の作品ですから、モータウンの代表作と言わざるを得ません。チャートではトップ10どまりでしたが、モータウン・サウンドとして振り返る時には必ず登場するアルバムです。

Going To A Go-Go / Smokey Robinson & Miracles (1965 Motown)