キース・リチャーズのソロ作品は23年ぶりだそうです。あまり驚かない自分に驚きます。二十歳前後の若者であれば、前作は自分が生まれる前かと感慨もあるでしょうが、23年前、キースはスーパースターでしたし、私もいい大人でした。

 それに、キースはそれからずっとスーパースターです。ソロ作品はなくても、彼の話題に事欠くことはありませんでした。ロックの世界もすでに50年はゆうに超す歴史を湛え、23年の月日は決して驚くに値しないことになりました。

 それにキースは70歳を越えました。それもまた驚きでもない。キースはことさら若作りをしているわけではありません。ブックレットの写真を見ると歳相応にお爺さんです。サウンドも全く無理していません。自然体で老人力を存分に発揮しています。そこがカッコいいです。

 この作品は、その久しぶりのソロ作品、ストーンズの活動の合間を縫って、2011年4月ごろから制作が始まったものです。共同プロデューサーでもあるドラムのスティーヴ・ジョーダンと二人でまずはリズム・トラックの制作にかかったそうです。

 以前のソロ作品はエクスペンシブ・ワイノーズなるバンドを結成して行われ、ツアーも行われましたが、今回はそのバンド・メンバーを揃えるのが大変だということで、そんな制作次第になった模様です。25年近くたっているのに全員が忙しいというのが凄いです。

 結局、その後、ワイノーズからはジョーダンに加えて、ギターのワディ・ワクテルやキーボードのアイヴァン・ネヴィルなどが後から参加して、キースと息の合ったところを見せています。結局全員参加だそうです。余裕綽々です。

 他にはノラ・ジョーンズやアーロン・ネヴィルのボーカル陣、ストーンズ時代からの旧友ボビー・キーズの参加が目立ちます。ボビーは本作品発表前に亡くなっていますから、まさに遺作と言えます。

 サウンドは、もうどこからどう聴いてもキース・リチャーズです。アコースティックなバラードに始まり、ロックン・ロール、カントリー、そしてレゲエまで、いろんな工夫がありますが、何をやってもキースはキースです。正面から堂々とロックです。

 このキースのリズム・ギターを聴けるだけで私は満足です。そして、歳をとってますます渋くなった老人力全開のボーカルも素晴らしい。「イリュージョン」では、ノラ・ジョーンズとのデュエットを披露していて、これまたカッコいいです。

 欲を言えば、スティーヴ・ジョーダンのドラムを始め、録音がクリアに過ぎるので、もう少しルーズにしてほしかったです。真っ先にスーパーヘヴィーを思いだしてしまいました。これはこれで良いのですが、ミックには似合ってもキースには似合わない気がします。

 しかし、些細なことです。ちょろっと弾いても複雑なリズムを感じるキースのギターが鳴っているだけで幸せです。このギターは一体全体何なんでしょう。歳とともに新たな魅力が出てくる。キースは本当にいい歳の取り方をしています。見習いたいものです。

Crosseyed Heart / Keith Richards (2015 Mindless)