フランク・ザッパ幻のアルバムですから、発売された時には驚いたものです。3枚組のボリュームにも圧倒されましたし、息子ドゥイーゼルのコンセプトによるピンク・フロイドの「原子心母」を思わせるナイスなジャケットにも感動したものです。

 この作品は、ザッパ先生が1977年頃に構想した4枚組LPをCD化したものです。当時のレコード会社だったワーナー・ブラザーズはこのボリュームを嫌気して発売を拒否します。フランクはこれをフォノグラムに持ち込んでテスト・プレスまでなされます。

 しかし、ワーナーはこれも嫌い、その前にアルバム4枚を制作する契約を履行するよう迫ります。そこで、ザッパさんは結局しぶしぶこのプロジェクトを4枚のレコードに編集し直して、レーベルに提供し、レコード契約を打ち切ることとしました。

 そうして発表されたのが、「雷舞イン・ニューヨーク」、「スタジオ・タン」、「スリープ・ダート」、「オーケストラル・フェイヴァリッツ」の4枚です。一方、この「レザー」は地元ラジオ局に持ち込まれ、全体が流されることになりました。それゆえブートレッグが残っているのです。

 それも今は昔、この作品はザッパ先生のアーカイブを渉猟しているジョー・トラヴァースがオリジナル・マスターを発見したことから、ついに発表されるに至りました。ザッパ先生のことですから、例の4枚を足しただけのものとはかなり異なっているだけに貴重です。

 ファンの間では長らく4枚組構想が先なのか、バラバラの作品が先なのか議論があったようです。しかし、今回の発売に際して奥さんのゲイル・ザッパがきっぱりと最初から4枚組のボックス・セットとして構想されたと繰り返し言明して、論争に決着をつけています。

 そうでなくても、冒頭におかれた名曲「レジプシャン・ストラット」を聴けば最初から4枚組構想だったことは分かります。この名曲は超大作の1丁目一番地に置かれることで、水を得た魚のように輝いています。これから始まる大冒険を見事に導いているんです。

 この作品の落とし子ともいえる4組のアルバムは、それぞれテーマがあるように思われるので、それはそれなりにまとまっています。しかし、それらをバラバラに収めたこちらの「レザー」の方が聴き通した時の爽快感は強いです。

 楽曲の数々は馴染みのものがほとんどですが、たとえば「フランベ」や「スパイダー・オブ・デスティニー」はボーカルが乗せられる前のオリジナル・バージョンですし、他にも微妙にミックスが違っているものもあり、なかなか興味深いです。

 そんな興味もわきながら、全体で2時間半の長丁場を、全く飽きずに聴き通すことができます。オーケストラ作品や猥雑なロック作品、端正な室内楽作品と当時のザッパ先生の音楽のすべてがミックスされていて、ついつい全部聴いてしまうはめに陥ります。

 大曲「グレゴリー・ペッカリー」も4枚組の最後を締めるとこれはこれでまた新鮮です。アイデアが泉のごとく湧き出ていた当時のフランクの頭の中を少し垣間見させてくれる、大変良心的かつ意味のある発掘だと思います。凄い作品です。

Läther / Frank Zappa (1996 Ryko)