水谷豊と言えば、今や「相棒」の杉下右京ですし、ちょっと前の世代には「熱中時代」、さらにはキャンディーズの伊藤蘭の連れ合いなんでしょうが、私たちの世代にとっては、永遠に「傷だらけの天使」のアキラです。

 それほどこのアキラははまり役でした。このドラマ自体がとても斬新なものでしたし、ショーケンと水谷豊のコンビはそれまでにない主人公でした。テレビ・ドラマの概念を変えたといってもいい名作だったと思います。

 監督には恩地日出夫、深作欣二、神代辰己などがリレーしたそうですし、後に大御所となる皆さんの新進気鋭時代の挑戦だったんでしょう。今にして思えばとても豪華な布陣でした。スチール撮影は加納典明だったそうですし。

 最も印象に残っているのは、やはり主題曲が流れるオープニングの場面です。ショーケンが起きてきてご飯を食べるシーンなのですが、牛乳を飲みながらコンビーフを食らう。牛乳瓶のふたの開け方とコンビーフを半分缶のままかぶりつく姿は驚きでした。

 そのシーンの背後にこのテーマ曲が流れるわけです。ギターに導かれて、サックスがリードをとるそのキャッチーな楽曲は素晴らしい。今でもしばしばテレビから流れてきますし、ドラマの主題曲集を作ろうとすると必ず入ってくる名曲です。

 作曲と編曲は大野克夫、演奏は大野もメンバーの井上堯之バンドです。このバンドは、グループサウンズの中心バンドだったスパイダース、タイガース、テンプターズのメンバーによって結成されたスーパーグループPYGの解散後にメンバーによって結成されました。

 PYGには沢田研二、萩原健一という二大人気ボーカリストがいましたが、このバンドは二人が去った後の姿です。しかし、仲が悪くてというわけではなく、井上堯之バンドは沢田研二のバックバンドや、ショーケンの出演ドラマのサントラを中心に活動していました。

 「傷だらけの天使」はまさにショーケン主演です。さらに「太陽にほえろ」のテーマも井上堯之バンドですが、そちらにもショーケンは松田優作の前任刑事役で出ていました。このあたりのメンバーのつながりがいいです。彼らはバンドなんです。

 当時の歌謡界にはバンドという概念はほぼありませんでしたから、その中でこういう姿勢を貫くのは並大抵のことではなかったと思います。それゆえに生まれた快作だったのかもしれません。バンドとしての一体感が高い演奏だと思います。

 問題のサックスは村岡健という方で、加山雄三の「君といつまでも」の間奏も担当された方で、「ルパン三世」や「太陽にほえろ」も担当、後に阿川泰子バンドのリーダーもされています。バンドのメンバーではありませんが、それでも立派なバンドのりになっています。

 このバンドのメンバーはギターの井上堯之、キーボードの大野克夫、ドラムの原田裕臣、ベースの岸部一徳の四人。俳優になった岸部一徳以外は音楽の世界で大いに活躍されています。まさに日本のロックの歴史を体現した人たちだと言えるでしょう。

Kizudarake No Tenshi / Inoue Takayuki Band (1974 ポリドール)