子だくさんにもほどがあります。かつてサン・ラーのアーケストラで活躍したトランペット奏者のフィル・コーランには総勢22人の子どもがいるといいます。よく子どもだけで野球チームを作るなんていいますが、これだけいれば紅白戦が出来ておまけに審判も賄えます。

 その22人の兄弟姉妹のうち若い方の世代に属する男8人によって結成されたバンドがこのヒプノティック・ブラス・アンサンブルです。どういうわけか、男は金管、女は木管を選ぶそうで、ここは全員が金管楽器です。ブラス・バンドです。

 ただし、公式サイトのバイオも混乱していて、7人なのか8人なのかよく分かりませんし、明らかにドラムが入っていますが、クレジットもないので、誰が叩いているのかよく分かりません。大雑把でよしとしましょう。

 バンドは1990年にフィル・コーラン・ユース・アンサンブルとして誕生しました。みんなまだ子どもでお父さんと一緒に演奏活動をしていましたが、99年に親元から巣立つこととして、このヒプノティック・ブラス・アンサンブルが誕生しています。

 2001年に最初のアルバムを発表すると、順調に活動を続け、2枚目はブラーのデーモン・アルバーンの尽力で英国でも
発売されています。その頃にはスタイルも完成し、やがて世界中で演奏するようになりました。

 デーモンのゴリラズを始め、ブラック界のスター、デ・ラ・ソウルやスヌープ・ドッグなどとも共演するなど、あちらこちらで引っ張りだこのようです。ここ日本にもやって来ており、結構な人気を博している模様です。この2013年のアルバムも日本で発売されています。

 サウンドはドラムの他はすべてブラスだと思われます。トランペットやトロンボーンなどの定番に加えて、ブラバンらしくスーザフォンやユーフォニアムなどの中低音域の金管楽器も使っているので、音の全帯域をブラスで占めているように感じます。

 「初めて聴いたのになつかしく思える」と各地で言われてきたと本人たちが言っている通り、確かにほんわかした感じがします。しかし、緩いわけではありません。シャープな音像ですし、ヒップホップやクラブ・ミュージックの影響を受けた新感覚の音楽ではあります。

 ドラムの感覚はどこか聞き覚えがあるなと思っていたらば、彼らはアフロ・ビートのオリジネーター、トニー・アレンとも共演していました。どすどす響かせるわけではないけれども、とてもしなやかなアレンのドラミングと共通するものがあります。

 そこにブラスの音群が被さってくるわけですから、新感覚ではあるのですが、サン・ラーやらアフロ・ビートやらを彷彿させる部分も色濃く、とても親しみやすい。血のつながった家族の紐帯でしょうか。

 「最高渋谷の夜」なんていう嬉しい曲を始め、各楽曲のキャッチーなメロディーも麗しく、ボーカル入りでもインストでもどちらもいけます。感覚はまさにヒプノティックで、一度聴いたら忘れられない気持ちの良さです。かっこいいです。

参照:CDジャーナル2012/3

Fly : The Customs Prelude / Hypnotic Brass Ensemble (2013 Pheelco)