フランク・ザッパ先生のスタジオ・アウトテイク集です。多くのプロジェクトの合間を縫ってパッチワーク的に制作されていたものです。フランクの死によって未完に終わったプロジェクトが多い中で、この作品は奇跡的に生前に完成されていました。

 「オン・ステージ」シリーズは膨大なボリュームになっていますが、それでも氷山の一角に過ぎません。しかし、スタジオでのアウトテイク集はこの時点ではこれと「ミステリー・ディスク」のみです。数が少ない。

 その理由は、「スタジオ録音のアウトテイクなんて、ほとんどないよ。だって、当時ひとたびスタジオ入りしたら、録音した音源の99パーセントを使うことになったんだからな」とフランクが解説しています。さすがはスタジオの魔術師です。

 しかし、99パーセントにも漏れた音源として馬鹿にしたものではありません。驚くべき完成度です。編集によってアルバムとしてのまとまりまで付加された素晴らしい作品になっています。それに何と言ってもとても楽しい作品です。

 一番古い音源は、ザッパ先生が結成した最初のバンド、ザ・ブラックアウツのものです。ただ、こちらは会話だけで、音楽としては「大渦巻きに飲まれて」が最初です。これは1958年か59年、まだフランクが10代の頃です。

 この曲ではフランクと兄ボビーのギターに合わせてキャプテン・ビーフハートがボーカルを披露しています。ブルース・チューンで女性ボーカルを真似したスタイルから始まります。もうこれだけで超お宝です。

 ビーフハートは合計で5曲に登場しています。名作「トラウト・マスク・レプリカ」の時期のものも含まれていて、とにかく凄いボーカルです。二人の共作はもっとありそうですから、後の発掘に期待したいです。

 カテゴリー的には、ザッパ先生が手掛けたサントラとマウント・セント・マリーズ・カレッジのオーケストラを指揮したサウンドが珍しいです。どちらも驚くべき完成度です。ロックを作曲するよりも現代音楽が先だったというエピソードに大きく頷くところです。

 新しいものでは1979年の録音もありますが、多くは60年代から70年代中頃までのものです。特に74年バンドの演奏の数々や、ザッパ先生によっても伝説の人だったというシュガー・ケイン・ハリスが参加している曲が印象深いです。

 マザーズで重要な役割を果たしたルース・アンダーウッドは、「このプロジェクトの一部が、生涯を通じて出会った人々への、いかにもフランクらしい感謝の捧げ方なんだということは、誰にでも分かるわ」と語ります。

 フランクとともに本作に係わったエンジニアのスペンサー・クリスルも「この作品はファンたちへの感謝の気持ちでもあるんだ。」と言っています。どちらもその通りでしょう。聴いていると、何とも心温まるんです。ファンでいてよかったなと素直に思います。合掌。

The Lost Episodes / Frank Zappa (1996 Ryko)