今回のジャケットは上村一夫氏によるイラストです。この方も劇画の方で、一世を風靡した「同棲時代」の作者として名高い方です。真打ち登場と言っても過言ではないでしょう。このタッチは素晴らしかったです。

 公式サイトによると、上村氏のイラストを使用する許可を未亡人に求めたところ、一旦は断られたそうです。音源もちゃんと送る丁寧な依頼ですが、音源を聴いた奥さんも困ったことでしょう。断るのは当然です。

 しかし、そこは面影のフロントマン、ACKYです。「再度菓子折を持って訪ねたところ、『あの音源を聴いてどんな怖い人達かと思ったら、丁寧で驚いた』と言われ快諾を得る」そうです。そして奥さんが「唯一これだけは好きだった」というイラストを借り受けることになりました。

 いいエピソードです。社会人として至極真っ当な常識を兼ね備えた人であることが分かります。大人と言ってよいでしょう。ノワールな世界を描き続ける面影ですが、破滅型の生活からはこういう世界観は出てこないということです。

 前作から1年後に発表された作品です。この後、彼らは「バンドなんかより面白いことが多すぎて」本格的な活動を休止してしまいますから、面影ラッキーホールの前期を締めくくる作品ということになってしまいました。

 前作に比べると、のりがより明るくなりました。サウンドも重いファンクというよりも、ホーン陣が軽やかに躍動するラテンのりが目立ちます。レゲエ調の曲もありますし、ロッド・スチュワートそのまんまのディスコ「給料日さん」なんていうのもあります。

 長いタイトルは前作からのリメイクを除けば、「ひとり暮らしのホステスが初めて新聞をとった」が唯一です。「夜空のムコウ」で有名な川村結花が参加して、♪ぶつ時の男は目で分かる♪と歌っています。まことに面影らしい世界観です。

 今回もカバーが一曲あります。萩原健一の「54日間、待ちぼうけ」です。これはショーケンが大麻所持で逮捕され、復帰直後に発表された曲で、54日間は拘置所での日々のことのようです。ここもまた面影らしい。ショーケンになり切っています。

 果てしなく明るい「おらんだ花嫁」は8万円のダッチワイフまちこさんの歌です。ダッチワイフの歌と言えば、ロキシー・ミュージックに「イン・エヴリー・ドリーム・ホーム・ア・ハートエイク」という傑作がありますが、180度違います。こちらは普通に愛しちゃっています。

 相変わらず達者な演奏で、歌謡ファンクが炸裂していますけれども、メンバーもこじんまりしてきましたし、いろいろと過渡期だったんだろうと思います。前作の充実ぶりを懐かしんでのセルフ・カバー「好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた2000」ではないでしょうか。

 カットアップ手法が多用されているので、知ってるのに曲名が出てこない中高年にはもどかしい気持ちが残る作品ですが、それもまたご一興。相変わらずの世界観に浸りながら、楽しいひと時が過ぎていくアルバムです。

Ongaku Girai / Omokage Luckyhall (1999 WAX)