最近、劇画という言葉をとんと聞かなくなってしまいました。漫画は相変わらず人気がありますし、大人向けの漫画も昔よりもさらに一般的になりましたが、そのせいでしょうか、劇画とは言わなくなりました。全部ひっくるめて漫画です。

 ジャケットのイラストはケン月影氏によるものです。私よりも二世代ほど上の人ですから、彼の描く官能的な劇画にそれほど親しんでいたわけではありませんが、彼の絵は脳裏に刻まれています。子ども心には大人の世界の象徴のようなものでした。

 面影ラッキーホールの世界観にはケン月影の劇画はとてもよく似合います。彼らの音楽の世界を描くとすると、実写ドラマよりも劇画でしょう。これ以上ないくらいマッチしています。裏ジャケやブックレットのイラストを含めて、相乗効果で凄いことになっています。

 面影ラッキーホールは、1992年に結成されていて、96年にインディーズからファースト・アルバム「メロ」を発表しています。この時のジャケットは、石井隆、「天使のはらわた」や「名美」で知られる劇画の巨匠です。徹底しています。

 その後、自らのレーベル面影観光から、矢沢永吉トリビュート・アルバムを発表し、同レーベルの第二弾作品「いろ」となる作品を制作します。これはソニーから発表される予定だったとのことでメジャー・デビュー作となる予定でした。

 しかし、公式サイトによれば、完成後に「『歌詞もジャケットも全てが品位を欠くためリリース不可』とされ、協議の末契約を解除。マスターテープとジャケットを譲り受け」ます。これに一部改編を加えて徳間ジャパンコミュニケーションズから発表されたのがこの作品です。

 60年代や70年代の話であれば分かりますが、1998年にそんなことが起こっていたとは驚きです。ライナーにある湯浅学氏の考えでは、「歌詞が問題にされたというより、歌の題材そのもの、歌の世界観の軸が気に入らなかった」のではということです。賛成です。

 ともあれ、難産の末に生まれたこの作品は素晴らしいです。改名後発表されたベスト・アルバムにもここから6曲も選ばれています。したがって舞台「いやおうなしに」でもこの楽曲たちが物語の骨格を作っていました。

 すでに彼らの世界観は完成されていて、過不足ない劇画の世界が展開されていきます。新聞の三面記事、それを敷衍した週刊誌の世界を題材に、どうしようもない男と女の世界が紡がれていきます。胸にずしんときます。

 サウンドはじゃがたら直系の見事なファンク歌謡。それにカットアップと言うんでしょうか、いろんな題材がかなりあからさまに使われています。たとえば「夜のみずたまり」のギターはジャーニーの「フーズ・クライング・ナウ」でしょうし、サザン的な楽曲もあります。

 近田春夫とビブラストーンズのカバーが一曲、あとはすべてオリジナルです。濃密な世界が展開されていて、劇画雑誌を一冊読み終えた気分になります。「俺のせいで甲子園に行けなかった」けれども「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」涙しましょう。

Dairi Haha / Omokage Luckyhall (1998 WAX)