ブライアン・イーノが選んだフェラ・クティのアルバム・ボックス・セットが発売されています。イーノがフェラのアルバムの中から7枚を選択したもので、この「アフロディズィアック」は堂々その7枚の中に選ばれています。

 相変わらず情報が混乱していて、このアルバムの発表は1972年なのか73年なのか、さらに録音は1971年なのか72-73年なのかよく分かりません。両方の説があるんです。クティ一族の奮起に期待したいです。

 この作品は、ロンドンのアビー・ロードにあるEMIのスタジオで録音されたものです。収録されている曲は4曲で、いずれもこの頃のフェラのバンド、アフリカ70のステージ曲ばかりです。中にはナイジェリアですでに録音して発表されていた曲もあります。

 それどころか、「ジェウン・コ・ク」はナイジェリアで発表されると、わずか6か月で20万枚を売ったというフェラ・クティ初の大ヒット曲です。まさに当時のフェラの代表曲と言える曲で、それをわざわざロンドンで再録音しているわけです。

 この曲のタイトルは、「食べて死ぬ」という意味で、まさに食べ過ぎて死に至る大食漢を歌った歌です。そんな歌ですが、フェラがアフリカで大成功する道を切り開いた曲として、フェラ史に残る名曲です。

 最初の曲「アル・ジョン・ジョンキ・ジョン」は伝統的なお話を歌にしたものです。簡単に言うと、動物たちが、ずるいことをした犬を糾弾するというようなお話だそうです。フェラの政治姿勢を考えあわせると意味深な歌です。

 「エコ・イレ」は家が一番という歌です。エコはポルトガル人によってラゴスと名前を変えられたナイジェリア最大の都市の名前です。これまた深読みしようとすればできる内容です。果てしなき闘いを感じます。

 もう一曲「ジェンウィ・テミ」はナイジェリア政府への直截な批判です。黙らせようとしても、真実を話し続けるぞという言論の自由を擁護する歌です。フェラによるナイジェリア政府への最初の攻撃だと言える曲です。

 代表曲ばかりなので、さすがにキャッチーないい曲が並んでいます。アフロ・ビートの確立期に当たっていて、テナー・ギターはまだ出てきませんが、ナイジェリアで音楽的に成功したアフリカ70の自信のほどが伝わってきます。

 総勢13人のビッグ・バンドなみの布陣での演奏は自信にあふれているんです。しかし、たとえば「エコ・イレ」でのフェラのボーカルはよれよれです。そこも魅力と言えば魅力ですが、これまでの、そしてこれからのフェラとは少し違う雰囲気です。疲れていたのかもしれません。

 ジャケットにある窓の外を眺めるフェラの横顔はまるで仏像のようです。弥勒菩薩の顔です。ナイジェリアの衆生はフェラによって救済されるということを予感させるジャケットです。デザイン的には今一つですが、フェラの顔の迫力があれば十分です。

参照:「フェラ・クティ自伝」カルロス・ムーア(菊地淳子訳)

Afrodisiac / Fela Ransome Kuti & Africa 70 (1972 EMI)