日本のポップス界でもカバー・アルバムがすっかり定着しました。歌番組でも自分の最新ヒット曲を歌うだけという構成の番組が少なくなり、他の歌手の曲を歌う光景をよく見かけます。これを日本のポップスもスタンダード化してきたとして歓迎する意見が聞かれます。

 確かにそういう側面はあると思います。大勢でカラオケに行って大いに盛り上がると、最後は大合唱になるものですが、世代が離れていると一緒に歌える歌がないことに気づきます。結局、文部省唱歌が最大公約数だったりしますから。

 これは昔からある歌の中で、若い人もよく知っている歌が少ないということです。聴かせる努力が必要です。その点、昔の人は偉かった。私の世代だと軍歌を歌えます。よく聴かされたからです。

 今は音楽の教科書に日本のロックやフォークが載っているそうですから大きな一歩です。「少年時代」というスタンダードに最も近い楽曲を作った井上陽水がカバー曲集を出していることはさらに大きな一歩でしょう。

 この第二集は第一集から14年もの歳月を隔てての登場です。思えば彼がカバーの先駆けでした。第一集は徳永英明の「ヴォーカリスト」シリーズよりも前のことでしたから。カバーが定着してからの第二集ということになります。

 今回は全11曲のカバー曲に加えて、新曲が2曲。この新曲はNHKの「ブラタモリ」のテーマ曲で、井上陽水の本領発揮トラックですが、生真面目にボーナス・トラック扱いとなっています。わざわざそんなこと言わなくてもいいのに。

 カバー曲の中で、最も大きな話題になったのは、再録ですが「SAKURAドロップス」でしょう。娘ほど歳の離れた宇多田ヒカルのカバーです。これは逆に年寄りにも宇多田を聴かせようという試みかもしれません。

 私としては、思い出深いユーミンの「リフレインが叫んでる」がツボでした。ユーミンでなくてもこの曲は素晴らしいのであるということがよく分かりました。オリジナルと比べてしまわないというのがスタンダードたる所以ですから、このスタンダード化は成功です。

 全13曲中、6曲はオルケスタ・デ・ラ・ルスがバックを務めています。それも宇多田の曲を始め、よしだたくろうの「リンゴ」だとか、セルフ・カバーでも「氷の世界」だとか意表をついたラテン化です。見事なラテン仕様で、これが曲に色気を付けていて、とてもよいです。

 井上陽水の声は老人の声です。相変わらずの美声ですけれども、若い頃のどこまでも届いていくような艶っぽい声とはかなり違っています。しかし、そこは陽水、老人ならではの素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。ラテンのりと合わせてキューバのブエナ・ビスタを思わせます。

 も一つ老人ならではの若い人押しも特筆すべきです。私はこのアルバムを聴いて、コーラスのLynと澤田かおりの作品を聴いてみたくなりました。それぞれのコーラスが絶妙です。井上陽水プロデューサーの最大の成果かもしれません。

United Cover 2 / Yosui Inoue (2015 Zen Music)