フランク・ザッパは1993年12月に亡くなりました。まだ53歳の若さです。晩年はシンクラヴィアによる作品が多くなりましたが、アイルランドのチーフタンズと楽しそうにセッションする姿も残っていますから、まだまだいろんな展開があったことでしょうに、本当に残念です。

 この作品は没後最初に発表された作品です。生前に制作されていた2枚組超大作で、とても豪華なパッケージに、残されたザッパ・ファミリーの気合が感じられます。期待通り、ザッパ・ファミリー・トラストは没後も良質な作品を送りだし続けることになりました。

 ザッパ先生は1967年にある実験をします。それはピアノの中に二本のマイクを詰め込んでおいて、身近な人々に頭をピアノの中に突っ込ませて、お話をしてもらうというものです。それを録音したものが「ランピー・グレイヴィ」に使われていました。

 しかし、当時のテクノロジーでは別々の日に録音した話し手同士が会話しているようには編集できませんでした。90年代に入ってそれが出来るようになると、ザッパ先生は同様の試みを行い、新たな住民たちの会話を録音しました。1991年のことです。

 この二つの音源がほぼ四半世紀の時を隔ててこのアルバムで同居することになりました。何ともワクワクする話です。この会話群は新旧ピアノの住民と、ピアノの外の世界に住む悪の存在についての話に膨らみ、「文明第三期」に結実しました。

 このアルバムでは、概ね会話パートと音楽パートに分かれていて、ブックレットに太字で記載されている音楽曲だけを取り出すと、1枚目が10曲、2枚目が9曲になります。これだけでアルバムを作らず、残り22曲を会話で仕上げたところに先生の意気込みを感じます。

 楽曲群は1枚目では100%シンクラヴィア、2枚目は70%がシンクラヴィア、残りの30%が「イエロー・シャーク」で共演したアンサンブル・モデルンのライヴ演奏で構成されています。実際、「イエロー・シャーク」で演奏された曲も数曲入っています。

 1枚目の「N-ライト」、2枚目の「死神をぶちのめせ」という終盤に置かれた15分を超える楽曲がへそになっています。それがやはり素晴らしいサウンドです。「ジャズ・フロム・ヘル」の頃に比べ、シンクラヴィアも随分こなれてきました。

 そして「文明第三期」なる壮大なタイトルがつけられているだけあって、ザッパ先生の集大成的なコンセプトを感じないわけにはいきません。イエス・キリストや教皇も参加していますし、ロナルド・レーガンも登場します。大きな話から身近な話まで縮尺も自由自在です。

 さまざまな解釈が可能な黙示録的な作品だと言えるかもしれません。先生のシリアスな面とエンターテインメントな面が同居しているので、楽しみ方もそれこそ数限りない。最後に大きな謎を残していかれたように思います。

 「死神をぶちのめせ」では、いつものようにアメリカの健康オタクを皮肉っています。当時のご自身の体調はあったにせよ、ザッパ先生はいつもと全く変わりません。その強靭な精神が作品の隅々にまで行き渡っています。やはり先生は素晴らしいです。

Civilization Phase III / Frank Zappa (1994 Zappa)